霊関係の話⑦ 死神のゲームをキャンセルした話
そう、これを書いておかねばならないでしょう。
あれは確か中学生の頃、夏休みくらいだったか。蒸し暑い日々が続く中、私は惰眠をむさぼっていたのです。居間のクーラーがちょうどいい具合に涼しくて、家の者は誰も帰宅していなくて、私一人でやりたい放題の日でした。
畳の間に寝そべって、誰も居ないのをいいことに長々と眠りこけていました。どのくらい経ったでしょう、ふと気配で目を覚ますと姉が傍に立って見下ろしていて、ぱたりと目が合った気がしました。
「あれ、帰ってたの? 早いね。」
私は寝ぼけたまま、それでもバツが悪くてそう尋ねました。やましい事をしているわけではないのですが、こんな所で行儀悪く寝転んでいる事が少々恥ずかしく感じたのです。
姉は穏やかな笑みを浮かべ、ただ黙って、ツタヤの黒い袋を振ってみせました。DVDなどを借りる時に入れてくれる、あの黒い袋です。
ああ、ツタヤに行ってたのか。私はそう思い、そのまままた眠りに落ちました。
それからしばらくして、今度は完全に覚醒し、目を覚ましました。ぐっすりと眠ったもので、夕方近くになっていました。
そして思い出したのです。姉はこのところ、ずっと帰りは遅くなります。夜もとっぷりと更けて、通りも暗くならないと帰ってこない日々なのです。
嫌な感じがしました。あれこれが思い出されてきて、そういえば先年でしたか姉が、よせばいいのに良く当たるという占いで自分の死期を占い、それが今年だというので大層落ち込んでいた事まで思い出しました。
ここで完全に繋がって、ますます私は言いようのない不安を覚えたのです。時間が過ぎ、家族が帰ってきました。姉が帰ってきた時に、私は一応、確認しました。
「姉ちゃん。今日の昼ごろ、うちに帰ってきた?」
「帰るわけないやろ、学校におったわ。」
「ツタヤでDVDか何か借りてる?」
「今は借りてないけど、なんで?」
「姉ちゃんが行くツタヤって、一軒だけ?」
「そうやね、駅前に一軒しかないから。」
「今年一年、絶対にツタヤに行かんとってや。頼むから。」
「なんで?」
「行ったら死ぬ。行かんかったら、……助かるから。」
怪訝な顔をしていた姉を懸命に説き伏せ、絶対に行かないと約束をさせました。あまり信じていないようだったので、その日の出来事を話し、去年の占いの話をしました。それからも毎日のようにツタヤには行くなと念を押し続けたので、姉は本気で何かあると察知してくれたようでした。
「絶対に行かんとってや。」
「しつこいな、行ってないって。」
仕舞いにはそんな風に怒り出すくらいになりました。姉も例の占いは相当に堪えていたので、私の忠告を守ってくれたようでした。
絶対に、ツタヤには行っていないのです。だから、今でも元気に生きています。
その代わりに、誰か別の人間が死神に捕まったかも知れません。
一人の、約束された死の機会を退けたことの意味を、私はすぐに気付いたのです。人の死は、確約されたものではありませんが、機会は巡ってくるものです。私はそれを回避させました。手元にカードが配られるようなもので、二枚のうちのどちらかを選ぶのが正しいのです。私が姉にさせた事はズルです。
一枚はハズレで、一枚はアタリなのです。
私は姉に、カードが配られる席に着かないようにと指示したのです。だから、もしかしたら別の誰かが座ったかも知れないのです。
私はもちろん承知の上で、姉にはキャンセルをさせました。ずうっと引っ掛かっています。シュレディンガーの猫の、あの箱の蓋を開く勇気はさすがになく、事故の記録を調べることはしていません。
霊能を持つ者は、時に運や偶然では済ませられないケースがあるんです。私はだから、特に地球の裏側の国で何が起きようが、人が何人死のうが、知ったことではないという考えを持っています。そうとでも思わねばやり切れない事が時々起きるからです。
手の届く範囲の、ごく身近の、ごくごく親しい私の大切な人々さえ平穏無事なら、それ以外には目を瞑ってしまうことに決めた出来事でした。
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