第4話 07:夢から覚めた朝

*  *  *


 そして。


 私は目覚めた。


 穏やかな紅茶の薫りに心が和む。

 安楽椅子が静かに軋む。

 私は仕上げ途中の刺繍を取り落として、身をかがめて手を伸ばす。

 それを拾い上げる手があった。


「うたたねですか。身体を冷やさぬように」


「ありがとう、チェシャ」


 彼の手から布地を受け取る。

 そこに薔薇園の刺繍が広がっている。

 作り上げる暇はないだろう。今更それを構いはしないが。


「アリス。ブランケットをお持ちします」


「いや、必要ないよ」


 去りかけたチェシャへ言うが、彼は聞かずに部屋を去る。

 しかしこれも好都合。


 静かな空気が、ふいに乱された。


 数多の軍靴が地を踏み鳴らす音が屋敷を取り囲む。

 規則正しい足音の中にきっと彼は居ないのだろう、それだけは少し寂しい。


 二度、固くドアがノックされた。


 低い声が問う、それを予測して私の唇は皮肉げに歪む。

 どうしてだろう、不思議と胸が弾んでいる。


 待ち望んだ時が来た。


 私はそれを、もう何度も夢に見た。


 ドアが開かれ、声がそれを告げるのだ。


「罪人アリス。夢罪の疑いで貴様を逮捕、連行する。

 繰り返す。罪人アリス――」



-END-

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罪人アリスの夢の国 詠野万知子 @liculuco

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