レンという家族
「それじゃあ少し、現状の話し合いをしますよ」
「それではまず、アオイ。どこに行っていたのですか? カナデはどうしたのですか?」
「テレーゼ、その辺りは後だ。とりあえずはティアが仕切った方が良い」
「……分かりました」
テレーゼは不承不承、と言った様子で椅子に座り直した。少し、身を乗り出していたのを恥じるように頬を染めて
「始めてください」
「……それじゃあまず、アオイは帰ってきて、カナでは帰ってきていない。そして――結界が一瞬だけど揺らいだ」
「っ、結界が!?」
「でもその後、元に戻って……いえ、それまで以上に強くなっていた」
「それが出来るのは……カナデだけ?」
「そのはず。少なくとも、私が知る内だと彼しかいない」
「……そう、よね。あの結界を突破できるのは、張ったカナデと力無き者、だけよね」
テレーゼはそう呟いた。だが葵はそれを嘘だと思った。何故なら、自分が通れたからだ。いや、そこは花奏が通してくれたのかもしれない。そう思っていると
「そしてあの魔王が復活しました」
「あの魔王? 魔王ってセレナだけじゃないの?」
「ええ、その魔王セレナです。どうやら前の魔王セレナと同じ、復活と言う他無いアレですね」
ヘカーティアは言い切った。そして
「それでは一旦ここまでで話を区切りましょう。アオイ、あなたの話をお願いします」
「……花奏はもう、ここに戻ってくるつもりは無いって」
「「「「「っ」」」」」
「「「え?」」」
娘三人以外が驚き、娘三人がその意味を理解できなかった。
「どうしてお父様は戻ってこないんですか?」
「……花奏は……家族と一緒にいるからよ」
「家族……なれば私たちは家族ではないと言うのでしょうか?」
「だろーな」
ヘカーティアはアクラの言葉に反応し、アクラを睨んだ。そしてそのまま目を閉じて
「アオイ、続けなさい」
「……もう、終わりなんだけど」
「終わっていません。その家族とは、魔王セレナでしょう?」
「……そうよ。それが?」
「「「「「「「……」」」」」」」
誰もが二人のやり取りに注目していた。だからこそ、アオイは大きくため息を吐いて
「次は?」
「魔王セレナと、現魔王セレナはカナデの家族、違う?」
「そうよ。ちなみに現魔王は花奏がカナって名付けたわ」
「……そうですか」
この時点でアオイの立場は最悪に近くなっていた。そこまで魔王に近づいたのか、と。そこから無事に帰ってくることが出来たのは何故か、と。
「お前……本当にアオイ嬢か?」
「そうよって言ったら信じるの?」
「ああ」
「そうよ」
アクラは頷いた。そして――
「んじゃアオイ嬢は本物で、カナデは幸せに暮らしましたとさ、で良いだろ。んで、どうするんだ?」
「どう、とは?」
「もう魔王セレナを殺す必要なくね? 殺しに行ったらあいつと敵対するし、あいつの幸せを崩すことになるだろ」
「世界と比べれば……」
「テレーゼ、お前は分かっているんだろ」
「……」
「アクラ、テレーゼは何を分かっているんですか?」
「魔王討伐の本来の目的。別に魔王セレナは世界を滅ぼしたりしようとしていないんだからな」
「……説明は、しないよ」
テレーゼは絞り出すように言い切った。それに日本人三人組は動揺を隠さなかった。そしてそのまま、詰め寄ろうとしたが
「待てよ」
「「「っ」」」
「あたしは納得しちゃいねーぜ。どうして父ちゃんが向こうに行っちまったんだよ」
「レンの言う通りですね」
「私もそう思います」
「だから花奏は向こうで家族と一緒にいるって「その家族ってのはなんなんだよ!」
レンが叫んだ。
「家族って何なんだよ……あたしの家族は父ちゃんとお母さんだけのはずだろ!? なのにどうして父ちゃんは……」
「……レンは懐いていましたからね。ショックでしょう」
「ショックだよ……」
レンは泣いていた。だがそれを眺め、セインとネリスも顔を俯かせていた。だからこそ、葵はテーブルを強めに叩いて
「花奏のところに行けば良い。あいつなら、きっとセレナと一緒にいるから目立つ」
「……セレナ、魔王セレナ。殺す目的だったのですが、結局は彼女を探すことになるんですね」
「そうなるわね。でも、あいつに会って、きちんと話すのが良いんじゃないの? って言うかそもそもどうして私に伝言を頼むのよ!?」
今さら葵は思った。そして一発殴らないと、と決意した。
*****
「……セレナ、結界に異変が起きている」
「え? どんな感じなの?」
「何かが無理矢理結界を突破しようとしているな……いや、だが攻撃的な意志を感じないな。ただ、結界を越えようとしている」
「どうするの?」
「……フェニックス、確認してこい」
「我が輩をそのようなことに用いるか……」
呆れ混じりに火の鳥が空を舞った。そして結界に干渉している者がいる方向に飛んでいった。そしてそれを見送って
「セレナ」
「なに?」
「俺は葵たちと別れる決意をしたはずだ……なのに、どうして胸が苦しいんだろうな」
「んー、葵のお尻を触りたい?」
「それもある」
セレナは笑いながら目を閉じ、花奏に背中を預けた。そして
「あの時、私たちに襲いかかってきたのは何だったんだ、って考えたことはある?」
「あるよ」
「私も……仮説だけどさ、少し、話しても良いかな?」
「ああ。仮説だろうと何だろうと構わない。何かが分かるのなら、それで良い」
「そっか。それじゃあ話すけど……あいつらきっとカナデたちと同じ、この世界の住人じゃないと思うんだ」
それは俺も薄々思っていたことだ。だが、それは口にせず、続きを促すと
「この世界の法則の外側にいる存在だよ。私の力も、カナデの力もあんまり通じなかったからね」
「ああ。だが、何体かは殺した記憶があるぞ?」
「うん、それは私にもあるよ。殺した手応えがあったもん」
だとすれば、殺せないわけじゃない。得体の知れない生き物だったが……殺せる。
「今度こそ、勝とう」
「うん、そうだね。今度こそ、勝つ」
セレナと向き合い、唇を重ねる。そしてそのまま、押し倒された。
セレナは龍人と人間のハーフだ。本来、それは悪くも何ともないのだが……セレナは事情が違った。龍人が持つべき力、龍力という力を持たずして、魔力だけを持ったのだ。どちらも共存してこそのハーフ、そんな意識がセレナを里から追放した。
「本当に、お前を追放した意味が分からないよな」
「全くだね……私はとりあえず、復讐する気なんてないよ」
「そうか」
「うん。でも仕掛けてきたら……叩き潰すけどね」
その圧倒的な魔力量に惹かれた悪魔は彼女を魔王と呼んだ。そしてセレナはそれを受け入れ、魔王と名乗るようにした。悪魔が悪さをしないように、きちんと見張り、自分の名前の庇護下で護ろうとした。そして護れなかった悪魔は――彼女が保護した。悪魔たちの王が。
*****
扉の向こうから聞こえてくる、両親の嬌声と互いの名、それを聞いてカナはげんなりとした。何がどうしてあの二人をそこまで駆り立てるというのだろう。まだ、年齢で言えば8歳の少女は悩んだ。
「もしかして、妹か弟が産まれるかもしれない」
そうなったら、私の場合と違って、誰かがきちんと卵を見守らないと。カナは心に誓った。
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