6話 白兎の神社

Chapter6 "Hakuto Shrine"



「メイ、ナムチとの戦いで何があった? そっちの若者は誰だ?」

 白兎クサギは封人に気がつくと、すっと立ち上がりえりを正す。


 透き通るような白い体、薄い青みがかった騎兵隊ライダー服のようなコート、両耳に2つずつ、綺麗にそろった神具しんぐのようなピアス。

 その上品な立ち振舞ふるまいは、兎の姿ではあるものの神主かんぬしのようにも見えた。


「それが、よく分から…」

 バタン…

「きゃ~クサギ様ぁ~!」


 メイが答える前に白兎クサギは直立姿勢のまま真後ろに倒れた。


「くそっ、はっ、は… 腹が減って… うご、けない…」


 ミコはあきれた顔でふところから小さな豆粒のようなものを取り出す。

 白兎クサギに向かって投げつけると、大量の精進しょうじん料理のぜんが現れる。


「おぉおおお! ぬぉぉぉ~」

 歓喜の雄叫びをあげると片っ端から料理を平らげはじめた。

 いつしか、真っ白な青年、クサギ白兎の姿に戻っていった。


 肩まで伸びた透き通るような白髪にグレーの眉、遠くからでも分かるほど長い睫毛に切れ長の目、少しふっくらとした頬にあどけなさが残る少年の顔立ち。

 白く細長い指と薄い手の平は、一見、頼りなさ気に見えたが、不断の努力でしか作れない鍛え上げられた体には戦士のオーラが宿っていた。


(相変わらず、食いっぷりは立派ね…)

 ミコは優しげに見つめていた。

 メイはすっとミコにより寄うと耳打ちする。


「お神酒みきも出してあげたら?」






      ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 いつの間にかえんもたけなわ、ワイワイ状態に。

 ほのかに赤く染まったメイの太ももに釘付けになっている封人ふひとが呟いた。

「あのぉ、 ナムチってなんなんすか?」


 会話が止まった。


 ミコに皆んなの視線が集まる。

 しかし、ミコはこの100年余りの出来事を映し出してるパネルの前に座り込んだまま、目をらすことはなかった。


 クサギはしょうがない、という表情をすると頬張ほおばった料理を一気に飲み込み、壁に男の顔を映しだしながら立ち上がった。


大国主おおくにぬし、オオナムチのことだ」

 「へっ?」


クサギは、トントン、と壁に現れた "大穴牟遅神おおなむちのかみ" の文字を指す。

 「先生、読めません」

稻羽之素菟いなばのしろうさぎの伝説は知っているよね?」

 「知りません」

・・・・・・・・


「ねえちゃん、こいつ、絶対ぇ、ナムチとは関係ないと思うぞ。」

 小声でミコにささやく。

「…そうね、まず、話を整理しましょう。」

 ようやくミコが振り返る。


「先週、守人もりとが、朝鮮の反乱軍陣営に傀儡くぐつの存在を確認した。

 昨夜、わたしとメイ、守人が従魁ジュウカイに乗り込んで…」

「私も居ましたけど?」

 イネが口を尖らがせて割り込む。

「そ、そうね、イネ大活躍だったもんね~。

 …

 で、ここで立てた作戦通り、夜中に漢城かんじょう近郊に集結していた日本軍に潜入した。

 私の読み通り、ナムチと腰巾着こしぎんちゃくのヘルフリートを見つけた。」

 ミコは、クサギに チラっと得意そうな視線を向ける。


「従魁と守人がヘルフリートたちの気を引いてる間に、私とメイがナムチを取り囲んだ…」

 クサギが生唾を飲み込みながら、食い入るような眼差しを向ける。


「あれは反則よね、あの傀儡どもの数は想定外…

 追い詰めたつもりが追い詰められてたなんて…本当ムカつく!

 従魁の機転のおかげでなんとか空に逃れたけどギガスまで出てきた。

 私たちは従魁ごと墜ちた。林に墜ちたはずが、気付いたら、そこは街になっていた。」

「そしたらねっ! メイがね! ねっ! ナムチがいる~! って、そいつのとこに飛んでったの。」

 クサギの腕に抱きついていたイネが封人を指差しながら嬉しそうに割り込む。

「ふふっ、 したら、こんなガキだったの、 よぉ~ん・・・」

 少しろれつのあやしくなったメイが封人の頭を小脇に抱えてさかずきを飲み干す。

 メイの胸に顔をうずめて至福の表情を浮かべる封人。


「も~う…そういえば従魁も守人もどこ行っちゃったのよ~?」

 イネの不満気な一言にミコは首を傾げた。

墜落ついらくするまで一緒だったのに。あの時、一瞬、全て消えた感じがしたのよね…)


「守人がいないから、俺は125年もの間、な~んにも食えてない! ということだぁ!」

「そうだそうだ!」

「守人が、ぜ~んぶ、わっる~いんだから!」

メイとイネが意気投合している。


(駄目だ… 話が まとまらんモードに入った…)

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