エピローグ

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 嵩はひとり部屋で、ギターをつま弾く、父から初めて教えられた曲だ。ずっと君を愛す、きっと、きっとだよ、ビートルズの「I WILL」という短い曲だ。父から教えてもらった曲で、一番好きな曲だった。

 あれから10年経ったが嵩の記憶からあの夏が忘れられることはない。父は結局家には戻らなかった。でも今でも時々連絡はとっている。

 莉子の精神状態も最近はようやく回復傾向にあるらしく、今では心療内科への定期的な通院だけで、先日アルバイトも決まったと聞いた。

 この10年間、父も相当の苦労をしたはずだったがそのことは嵩へは詳しくは伝えなかった。いつも良い連絡だけをくれる。


 嵩はあの事件のあと程なくして、芸能界へ復帰した。主演映画も来月公開の新作でもう10本目になる。11本目の映画も決まっていた。バンドは趣味程度にたまに知り合いの店で助っ人でアコースティックギターを弾くこともあるが、もうエレキギターをかき鳴らすことはなかった。

 お金に興味がないのかまだ母と二人で同じアパートに住んでいる。母も嵩と同じ考えで、ここが終の棲家でいいと考えていた。


 嵩がギターを弾いていると、台所のほうから母の鼻歌が微かに聴こえてきた。

同じ曲だった。

 一緒に住むのは無理だとしても、いつか四人で逢えたら…。


 嵩はギターを床に置き、映画の台本へ手を伸ばした。


「死神コバーンと無邪気なコートニーラヴ」

                                         了

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死神コバーンと無邪気なコートニーラヴ 垂季時尾 @yagitaruki

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