05-08 白虎旗の下
組ませた櫓にゃ、それなりの広さもつけてある。
寄奴と
後ァ、寄奴の長剣を見せつける役の、
それにしたって、千人、だ。
ずらっと兵どもが、櫓の前に並ぶ。
寄奴ァ王さまたちを通して、もっと大勢の前に立つ景色だって見ちゃあいる。っが、いざ立ってみりゃ、やっぱり違う。居並ぶ野郎どもの匂いっつうか、シャレて言ってみりゃ、気、ってやつか。肌で、そいつを感じる。
悪かねェ景色だ。
っが、のんびり浸ってるわけにもいかねェ。
「お前たちの働きで、クソどもから呉興を助け出せた!
一旦言葉を切ったとこで、列のケツに立つ令史を見る。手が上がった。声ァちゃんと届いてるらしい。
「っが、この勝ちで勢いをつけてもらえた! そいつは忘れちゃなんねえ!
「おう!」
野太い声で返事する
「恩」
「は」
「道隆の肝っ玉を見てみてえ。合図を出す。そしたら、前に剣を倒せ」
「は」
余計なこたァ聞こうともせず、ただ、従う。いいんだか悪りィんだかな。まァ生きるの死ぬののかかったときにゃ、この上なくありがてェが。
櫓わきのはしごをひっつかみ、おっちら王道隆が寄奴の前に来た。どうだ、とばかりのニヤケ面。
「道隆。言うだけのこたぁあんじゃねえか」
「あたぼうよ。まあ見てろって、アンタがそこまで登れたんだ、なら、俺だってすぐさね」
「そうかよ」
令史が寄奴んとこに銭の入った袋を持ってくる。こないだ王道隆に渡した支度金よか、ずっと重めェ。けだものそのものみてェに笑うと、王道隆ァむんずとそいつを掴んだ。あからさまに、令史がビビる。
「すげえな、将軍。大盤振る舞いだ」
「そうだな。功績にゃ褒美、違反にゃ処罰。つけるけじめは、きっちりつけとかねえとな」
言って、寄奴ァ蒯恩に向けて手を挙げる。
指示通り、剣が前に倒れてきた。
片手で柄を握り、引き上げる。
腕から、肩から、背中からが、剣の重さに悲鳴を上げる。
知ったこっちゃねェ。
そのまま剣を振り上げ、王道隆の肩口から、斜めがけに、叩き斬る。
「え」
そいつが王道隆の、最期の言葉だ。
勢い余った長剣ァ、そのまま床板をぶち破る。
つってもその辺りゃ虞丘進に言いつけて、ぶっ壊れても大事ねェようにしておいた。多少櫓も揺らぎゃするが、そんだけだ。
何がなんだかわかんねェってツラのまま、吹っ飛ぶ王道隆の上体。派手に血だ喰いもん、酒だなんだをぶちまけながらぶっ倒れる、下体。
合わせて櫓の下じゃ、孟龍符と
ごと、と王道隆の上体が床板の上に落ちる。
長剣を改めて蒯恩に渡すと、寄奴ァ死体をむんずと掴み、掲げた。
「こいつがなんで殺されたか、分かってねえやつはいねえだろうな! 民から奪うな、民を殺すな! 伝えたはずだ! だがこいつは奪い、殺した!」
寄奴ァ王道隆だったソイツを投げ捨てる。あからさまにビビった令史どもが、そいつを片付ける。
「好きに奪え、敵からはな! そいつを止める気ゃあねえ! っが、お前らが敵以外から奪いやがるんなら、己がお前らから奪う! 殺しやがりゃ、己が殺す!」
兵どもァあっけにとられながら、寄奴と、お互いとを代わる代わるに見合った。
無理もねェ。軍隊なんぞ、食い詰めモン共がほうぼうを逃げ回った先で、最後に頼る、浮島みてェなモンだ。殺し、殺される。そんかし殺しゃ、相手の全部をかっぱげる。どでけェ見返りがあるからこそ、生きるの死ぬのに金玉さらせるってもんだ。
っが、寄奴ァ、そいつを禁じた。
「王道隆隊、副官!」
「っは、はいっ!」
孟龍符に槌を突きつけられ、縮こまってやがったそいつが声を上げた。
寄奴ァ血まみれになって転がされてた銭の袋を拾い上げると、副官に投げつける。
ざわ、と周りがざわめく。
「本来ならお前がやつを止めるべきだった、そこは分かってんな!」
「はっ!」
「なら、お前も同罪だ! っが、ここじゃ殺さずにおく! 呉興を落とした、その功は功だ! こっから先で、己に沙汰やみしたいって思わせてみろ!」
びくり、って副官が震えた。
孟龍符がちらりと寄奴に向く。
寄奴が小さくうなずくと、へっ、孟龍符ァ笑って槌を降ろした。手下どもにも、得物を下げさせる。
「副官、名前は!」
「ふ、
「なら、弘之! 五十人からの首、お前が背負った! いいな!」
ぷつっと何かが切れたみてェに副官、傅弘之ァ土下座する。言い聞かせられたわけでもあんめェに、王道隆隊――っと、もう傅弘之隊か。隊の他の奴らも、すぐさまそいつに続いた。
そいつを見届けてから、改めて寄奴ァ軍の端々に目を飛ばす。
「改めて言っておく! お前らの食い扶持、お前らの栄達! 己が持つ!」
孟龍符と、諸葛長民。奴らにそれぞれ割り当てといた兵どもァ、得物を掲げ、
「民に求めるな! 己らの戦いは、天下の民、詰まるとこ、お前らのための戦いだ!」
再び上がる、応、の声。
新しく加わった配下共のうち、半分ッくれェが、同じように声を上げた。
「
さらに、応。
取り残されてた奴らも、手前ェらが何をすべきか、ようやく分かっちゃきたようだった。慌てて剣を抜く。おんなじように掲げて、けど声を出し切るまでにゃあ至らねェ。
「
もいっちょ、応。
見りゃ傅弘之どももようやく立ち上がり、おんなじように剣を掲げてた。
寄奴ァ口元に笑みを浮かべる。誰にも見えねェくれェに、ひっそりと。
「殺すぞ! 殺して、名前を手に入れろ!」
高らかに、寄奴ァ拳を天に突き上げる。
ひときわ大きな応の声が、寄奴にぶち当たってきた。
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