4 奸人
04-01 孫恩の乱 序幕
いちおう海にゃ面してっから、水軍でも編まれりゃ話ァ違ってくる。が、そんなんわざわざ編んでまで攻め落とすほどのうま味もねェ。
だからこの町にゃ、北から逃げてきた名族どもがこぞって家を構えた。戦火にさらされる恐れもなく、のほほんと暮らしてられる場所。そう見立ててたんだろうな。しかも船さえありゃ、海づてに長江に入って、建康にも出られるしな。
そんな都合が、却って災いしちまうんだからな。まったく物事ってな見通しが利かなくっておもしろ……じゃねェ、むつかしいモンだ。
五胡どもにゃ馬って足がある。が、五斗米道はそうじゃねェ。だから奴らァ船を足にして、沿岸を荒らし回りやがった。ってこた奴らにとっちゃ、会稽ァお宝の山にしか見えなかったろうな。何せ襲われんのが恐くて奥地に引っ込んで来たような奴らの根城だ。そんなとこの守りにつきてェ奴なんざ、同じように戦うのが怖ェ奴らばっか。野良犬放しといた方が、まだマシってもんだったろう。
ここで、ざっとこの戦いの陣容について話しちまおう。後からうだうだ言うよか、その方が話が早えェだろう。
対する、われらが晋軍。わざわざ北府の総大将たる
で、
「
馬首を並べたところで、劉牢之将軍がいきなり寄奴にぶっ込んできた。
しかし、将軍も真っ正面から切り込んでこられる。駆け引きなんぞあったもんじゃねェ、なら、寄奴だって引いても仕方ねェ。
「ええ、頭目の孫恩にも会いましたよ。正直、あれが敵に回りやがんの、ご勘弁願いたかったんですが」
「それは、顔見知りのよしみという事かね?」
しれっと聞いちゃきたが、圧がやべェ。ヌルいことほざいたら叩っ斬んぞ、って言外に匂わしてきやがる。表向き寄奴もしれっとしてみちゃいたが、裏側じゃその圧を前に張り詰めてたし、けどまァそのヒリつきを楽しんでもいた。
「まさか。あの手合いは厄介だって思うんすよ。ちょっと話しただけで人の心食い尽くす口だ。ああ言うのん所にゃ、喜んで死ぬ奴がうさうさ集まりやがる」
「賀也汝便登仙堂(おめでとう、きみは仙堂に辿り着いたのだ)、か」
「よくご存知で」
「あれだけ物見の報せにあればな。五斗米道の哨戒隊との接触あり。こちらを見つけるなり襲ってきたため迎撃、精強さにこそ欠けるものの、決して怯むことがない。こちらが一人を斬り伏せれば「賀也汝便登仙堂!」を唱え、むしろ勢いを増す。結局は全員を殺すことになり、寧ろ躊躇したこちらに損害が出た、とのことだ」
ん、って思う。
寄奴ァ将軍を見る。
「一応、一つだけいいすかね」
「何だ」
「
ふむ、と将軍が興味深そうに笑われる。
「何だかんだ言ってみても、彼の者への弁明かね」
「よして下さいよ。そうじゃねえです、己が言いてえのは、頭にちょっとした裂け目があるんじゃねえの、って事で」
「ほう?」
将軍が、さも何ほざいてんだコイツ、とばかりの顔で寄奴を見る。
「それが何かね。裂け目ごと殲滅すれば良かろう」
「ま、確かにそうなんですが」
当たり前だが、将軍は孫恩をご存知ねェ。
だから、上手く寄奴も説明できねェでいた。
何かが、違う。
だが、そいつァ何か、としか言いようがねェ。そいつを上手く言い表せる言葉は、寄奴ん中にゃなかった。
寄奴の様子に、将軍も何かがありそうだ、たァお考えになったんだろう。しばらく寄奴を見た後、ふ、と微笑まれた。
「戦場では、理に適わぬ流れが趨勢を決することもある。劉裕、貴様の抱く違和が善きものであることを願うぞ」
器、ってやつなのかね。
将軍からのお言葉は、そこで終わった。軍の幹部どもが将軍の元に群れてくるのを見届けて、寄奴ァゆっくりと将軍の元から離れる。
それから、受け持ちの所に戻る。
で、そんな中に、二人がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます