第11話 残り12話
六月の終わり。海開きの前から、私と玉井は、海の家「どんげー」の開店準備を手伝うことになった。建物は手作りなので、結構重労働だった。どんげーとは種子弁で、私の家と言う意味だ。場所は熊野海水浴場で、公式ガイドによると、「沖合に浮かぶ小島、エメラルドグリーンと白いビーチがまぶしい、中種子町の代表的な海水浴場」だそうである。
かなりの遠浅で、私の「どんげー(今私が会社の金で借りている家のこと。あしからず)」のすぐ近く。種子島に数ある海水浴場の中から熊野を選んだのは、そこが空港から最も近いからだ。そのうえ、キャンプ場や海を眺めながら入浴できる中種子温泉保養センターと隣接し、本土からの観光客が最も多く訪れるとふんでのことだ。
普段は漁師をしている、高城さんという三十代の男性がオーナーだ。料理が趣味で、調理師免許を取得している。玉井とは居酒屋で知り合い、反TTPで意気投合。身長は低いがかなりの肥満で、優に百キロは越えている。調理師免許をとったのは、海の家のためだけでなく、最終的には漁師料理の店をオープンして、自分でとった魚を自分で調理するのが夢だからだ。海の家はそのための足がかりのようだ。しかし、奥さんは反対らしく、姿を見せない。
海の家のように、電力供給や通信環境が不自由な場所でのビジネスに対し、政府銀行は簡易TEN端末を用意している。これは生体認証機能を省略したもので、IDカードの顔とカード利用者のそれが同一人物かどうかを目視で判断するという原始的な仕組みにより、小型化を実現している。生体認証を怠った分、セキュリティは劣るが、考えられる不正利用は、店側と客がグルの場合くらいだ。盗んだカードを使う場合でも、紛失すればすぐに持ち主が申請するし、どの端末を利用したのかわかるので、あまり大きな被害はでないと見込んでいる。
簡易端末にもワイファイ機能はあるが、通信環境が整っていない場所で使用されることが多いと想定され、最寄りの政銀支店まで持ちこんでデータを吸い上げることができる。なお、夏休み中の観光客の増加を見込んで、南種子に政銀の臨時出張所が開設されるのでそちらでもいい。耐水性に優れ、落としても壊れにくい頑強なボディなので、海の家にぴったりだ。
玉井は、従業員なので七月一日のオープン初日から出勤。その頃はまだ海水浴客が少ない。私も自分の仕事にかこつけて、十日頃からどんげーに居候することにした。観光客でにぎわうこの季節、TTPに関するアンケートを大々的に行うのだ。といっても、最初はひやかし半分で玉井についていったにすぎない。
テイクアウトカウンターには、政銀で借りた簡易端末が置いてあった。サイズは通常のものより少し小さい程度のA5サイズ。センサー部がなくなった以上に、バッテリー部分が大きい。省電力化のため、液晶は通常の半分以下の面積でモノクロ。その横に小型のレジが置いてあったのには驚いた。
本土からの観光客のなかには、現金を持ってくる人間が必ずいる。そういった場合の対応で、夏期限定の特例として現金の取り扱いが認められた。一旦現金は使えないとしておきながら、たった三ヶ月で特例を認めたことを私は危惧した。蟻の一穴天下の破れということもある。こういった小さな例外からTTP全体が崩壊していく。
アルバイトの中に、どこかで見たことのある顔があった。前回会ったときと髪型を変え、制服姿でなかったので瞬時にはわからなかったが、およそ十秒後には、結依の友だちの痩せたほうの崎だとわかった。バイトの斡旋を玉井に頼んだらしい。
私が厨房にいると、テイクアウト客が来た。オーナー自らが対応し、「炭火焼き五本」の注文を受け、「お支払いは?」と聞く。
「現金でもいい?」
「ええ、結構です」
次の客もテイクアウトで、支払いはID。カードを受け取り、ちらっと見ただけで本人と確認。簡易端末に読み込ませ、金額を入力。液晶に表示された金額を客に確認してもらって、支払い完了。
簡易端末でも支払いに問題がないことがわかると、私はオーナーに断り、先日の重労働の謝礼ということで、現金レジの中から若干の硬貨を抜き取ると、外へ出た。どんげーと私の間にはなんら雇用契約はないので、忙しい玉井達スタッフを後目に、自由な時間をすごすのだ。
ひさびさに握った硬貨の感触はずっしりと重い。まず最初にしたいことといえばあれだ。私は中種子温泉保養センターの前まで来た。ATMに用があるわけでも、入浴したいわけでもない。ATMコーナーの隣に缶ジュースの自販機があるからだ。私がこの島に赴任したときにはあったが、TTP開始後間もなく撤去され、今また同じ場所によみがえったのだ。わざわざ「使えます」とコイン投入口のそばに説明書きを貼ってある。外部から来た人間には何のことかわからないだろうが、この島の人間には使用できる自販機はある意味掟破りなのだ。
私は硬貨を投入すると、柑橘系炭酸飲料水のボタンを押した。取り出し口から、商品をとると、海のほうへ駆けだした。徒歩で五分ほどだが、興奮して走ったので一瞬に感じた。そしてサンダル履きの脚の膝から下を海水に浸し、周りを見回した。
見わたす限り、空と海と砂浜。大自然の雄大さに較べれば、人間の営みなどささいなことだ。ましてTTPなんかはミジンコ以下のゾウリムシ程度にすぎない。そのゾウリムシのため、私たち種子島の住人は、言葉に尽くせぬ苦渋を嘗めてきた。でも、今この一瞬は、一切の煩わしい雑念を忘れよう。そう心に誓いながら、缶ジュースの蓋を開けると、プシューという炭酸の音と、みかんソーダの香りがした。そして私は全宇宙を丸飲みするように、缶の中身を一気に飲み干した。
ビーチで時間をつぶすことができず、三十分もするとどんげーに戻ることになった。店の中は、玉井の焼く地鶏の臭いが充満している。客もぽつぽつと入っているようで、店内は活気に満ちている。
海の家といっても、シャワーや着替え場所を提供するところと異なり、どんげーは飲食と販売のみだ。厨房から直接テイクアウトでき、座敷などでゆっくり食事もとれるよくある造りになっている。蓙をしいた座敷の他に、土間と外にふたつずつ丸テーブルがおかれ、三十人程度が座ることができるが、調理がそれに追いつかないのは明らかだ。
それで今、玉井はインギー大王から盗んだ(学んだ)ノウハウを崎達アルバイトに仕込んでいる。仕入れ先も大王と同じところだ。玉井の抜けた大王のほうでは、結依の友だちの太ったほうの優が厨房に入るので、あのときの二人は結局似た内容の夏のバイトをすることになったといえる。
誰に頼まれたわけでないのに、私は呼び込みを始めた。後で関係者に聞いたところ、その日は例年の五倍の人出だったそうである。TTPで財政が潤う行政が大キャンペーンを繰り広げた結果だ。
「種子島名物インギー地鶏の炭火焼きです。プロの職人が焼いています。お持ち帰り、お食事どちらもできます」と両手をうち鳴らしながら、大声を張り上げる。それでテイクアウトコーナーにちょっとした行列ができ、さらに家族連れの食事をゲット。土間のテーブルに案内した。
くどいようだが、私はここのスタッフではない。本土などから島を訪れる観光客に対しTTPについての大規模なインタビューをするのが仕事だ。とりあえず、自分で呼び込んだ家族連れのご主人に
「おいしいですか」と声をかけた。
「ええ」
「地元の方ですか」
「いえ、熊本から来ました」
「実は私、雑誌の記者をしてまして」
相手は当然私をここのスタッフだと思っているだろう。私は名刺をとりだした。彼は不思議そうな顔をして、
「記者さんがここで働いてるんだ」といった。
「いえ、ここの店の人間と知り合いで、観光客の方にアンケートさせてもらうかわりに、多少の手伝いをしてるんです」
「へえ」
「四月からこの島でTTPが始まったんですが、本土の方はどう感じられているか、いろいろとアンケートをとりたいと思いまして。今日、こちらに来られたのは純粋に観光目的ですか。TTP自体に興味をおもちで……」
話の途中で、外の方から若いアベックが、
「浮き輪ある?」とぶしつけに聞いて来た。浮き輪は置いてあるが、レンタルではない。
「販売になりますけど」
「いくらぐらい?」
「え~」
従業員ではないので値段までは知らない。
「少々、お待ちください」
といって、厨房にいるオーナーに値段をきき、戻る途中、座敷の客から、
「すいません、唐揚げどんぶりひとつください」と注文を受けた。
天候が良いのに、バイトが一人休んでいるので人手不足だ。浮き輪の客はふたつ購入。座敷のオーダーを厨房に伝えると、
「悪いけどテーブル片づけて」
と玉井に頼まれた。そんな感じで、結局、二時頃まで配膳とオーダーで手一杯でインタビューはできなかった。
これではまずいので、やり方を工夫することにした。事前にアンケート用紙を用意して、それに記入してもらう。アンケートに協力された方には、どんげー特製マンゴープリンを無料進呈。もちろん、正直出版の経費で。家に戻り、アンケート用紙を作成、海の家に戻ると、もう夕方だった。
一日の営業が終わると、売上の集計だ。通常のTEN端末同様、簡易端末にも集計機能がある。一方、現金レジについては、中身を数えるといった、伝統的な手法に頼るしかない。
現金払いの客は思っていたより少なかった。バイト諸君に日当を支払うことになっているのだが、現金だけでは全員分足りず、また現金で受け取りたくないということもあって、基本は振り込みだ。
オーナーが帰りに出張所に寄るので、そこで振り込むのだが、その日、崎は、これからすぐ使う予定だから、すぐそこのATMで振り込んでください、とオーナーに頼んだ。
すると、オーナーは困った顔をした。
「そりゃ、だめだよ。だって出張所に行かなきゃ、今日の売上あがらないんだから」
「でも、六時から使う予定があるんです」
「君、ひとり分のバイト代くらいの蓄えはあるよ。でも、そのために俺自身がわざわざATMまで行って、さらに出張所までいかないといけない。二度手間なんだけど」
私は見るに見かねて、
「それなら僕が立て替えておきます」といった。彼女は、
「え、本当」と言うと、私の携帯に自分のID番号を送信した。オーナーは、
「悪いね。ただ働きさせたうえに、金貸しまでさせて」とありがたがってくれた。私は、
「それでは、ATM寄るついでに帰ります」
といって、掃除などの残務が残っているスタッフ達に別れを告げた。従業員でもないのに、先に帰るだけで何で気が引けるのだろう。
帰り際に聞いた「ああ、本当にこの島は金扱うのが手間だ」というオーナーのつぶやきが耳の中で木霊する。彼は、私が立て替えた分も出張所で振り込みをしなければいけない。
これが現金の使える社会なら、銀行にもATMにも行かず、その場でバイト代を支給できる。釣り銭ミスやレジの中身を抜かれる心配はあるが、税務署に対し売上をごまかせるかもしれない。
八月になると、スタッフも要領を得てきて、ピーク時以外は、私は自分の仕事に専念できるようになっていた。しかし、その安心もつかのま、事件は起こった。
そのとき私は、店の外の丸テーブルにいた福岡から来た若い女性の一団にインタビューしていた。その中の一人がやけに親しく話してきた。
「種子島に住んでなにが良かったの?」
「この島で暮らしてよかったことといえば、やはりこうして夏を満喫できることかなあ」
「ビーチが職場なんて、うらやましいな」
「別に遊びに来てるわけじゃないから」
「記者さん、彼女とかいるんですか」
実は、崎という名の結依の友だちは、以前、私が彼女のバイト代を立て替えたことを何か勘違いしていて、しきりと私に色目を使ってきていた。それだけならまだいいが、私が若い女性と話していると嫉妬までしてくる。そのときも、そのことが気になっていた。
そんなとき、後ろから
「おい、客が来たのに、案内しないのかよ」と野太い声がした。振り向くと、四人組のプロレスラーのような体格の男達がいた。四人ともタンクトップ姿でこんがりと日に焼けている。私は隣のテーブルを案内した後で、「スタッフ、呼んできます」といって厨房に向かった。みんな忙しそうだった。
崎が私のほうを向いたので、「お客さんだけど、いいかな?」と声をかけた。彼女は私と女性客のやりとりを聞いていたようで、むっとした感じで「はい」と答えた。
彼女は、レスラー達にも、不機嫌な感じで注文をとり、厨房へ戻った。
「なんだよ、あの態度」
ひとりがそうつぶやくのが私の耳に入った。
私は自分の仕事に戻り、アンケート用紙に記入する女性客のテーブルのそばで会話を続けた。
「すると、福岡でも早くTTPを実施して欲しいということですね」
「そう、カードだけで精算ってなんかおしゃれじゃない」
「実際やってみるといろいろと大変なんですよ。先日も食い逃げされたし」
「食い逃げとTTPがどう関係するのかしら」
「それは話すと長くなるんですが……」
そのとき、「俺たちには聞かねえのかい?」というドスのきいた声がした。リーダーとおぼしきひげ面が、私に向かっていったのだ。私は彼に向かって軽く頭を下げると、
「こちらが終わってから、おうかがいします」といった。
「私たち、もういいです」
と、先ほどの彼女もレスラー集団と関わりになるのを避けた。
私は仕方なく、すごすごとレスラー達のほうへ向かった。
「それでは失礼します」
「おい、料理が遅いぞ、いつまで待たせるんだ」
のっぽの茶髪が私に怒鳴った。
「この店のスタッフに聞いてきましょうか」
と、店との関わり合いがないかのように私はいった。
「店長、呼べ」
「やめねえか」
リーダーがたしなめた。
その一言でその場はおさまり、私はおそるおそるアンケート用紙をさしだした。すると、
「もう、そんな面倒なことはいいや。おごってやる。好きなもの、頼め」
とリーダーにいわれ、同席するはめになった。
炭火焼きを四本ごちそうになっただけだから、十分程度の時間だったと思う。自分で感じた時間ははるかに長い。なんとか食事が終わると、私は、
「僕も食べたんですから、僕が払います」
といって席を立った。すると、リーダーは立ち上がり、
「馬鹿やろう。おごってやるといってんだ」
とすごい剣幕で怒ってきた。そのままサイドスープレックスでもかけられるかと思いきや、彼はそのままテイクアウト窓口に歩いていくので、私もつきそった。オーナーはそこで心配そうに見守っている。
リーダーはIDカードをとりだし、「現金一括」と冗談か本気かわからない一言をいった。問題は、そのIDカードの顔が、完全に別人だったことだ。神経質そうにやせた色白の堅物メガネと、日に焼けたひげ面の大男。どんな鈍い人間でも本人でないとわかる。明らかに盗難カードだ。しかし、オーナーはカードを受け取ると、
「カード、お預かりしました。全部で千八百六十円です」
といって、なにごともなく会計をすませた。
リーダーは、オーナーからカードを受け取ると、すぐ後ろに控える他の三人のほうを向き、目配せした。それまでおとなしかったまじめそうな男が、カードのようなものを取り出し、オーナーに向かって見せた。彼は落ち着いた声で、
「政府銀行の者です。今、IDカード不正使用の実態について調査しているところでして、お話きかせていただけますか」といった。
私はリーダーに「あなたも銀行員ですか」と聞いた。
彼の話では、彼らのうち三人は同じジムで鍛えている仲間で、政銀の保安要員として最近雇われたばかりだそうだ。警備を外部の業者にまかせないのは、政府銀行が私設軍隊でも作る予定なのだろうか、などと考えたくなる。
それにしても、簡易端末では本人確認が不十分だと証明されてしまった。その使用を決めた政府銀行も、セキュリティの甘さは充分承知しているはずだ。実際に盗難カードを提出されたとき、販売店側がどう対応するか、自分たち自身で調査しているのだ。
それからオーナーは政銀南種子出張所まで出向くことになり、私は彼の抜けた分を穴埋めすべくテイクアウト担当になった。今回のオーナーの対応は、紛失が届けてあれば、店が食い逃げされたことになり、そうでなければ、カードの持ち主に損害を与えることになる。相手は警察ではない。ただの銀行員だ。法的に罰せられることはないが、オーナーはどう言い訳するのだろうか。
三時間ほどでオーナーは帰ってきたので、交替した。その日は彼のおごりということで、玉井と一緒に居酒屋に誘われた。居酒屋は西之表にあるので、彼が叱られた南種子の出張所には寄らず、売上の吸い上げは種子島支店ですませた。
居酒屋では予想通り、オーナーから長々と愚痴をきかされることになった。
「あいつら、人のこと犯罪者扱いしてきて、いろいろ五月蠅いから、こっちもいいたいこと言ってやったよ。俺はただ海の家やりたいだけなのに、許可申請に行ったら、政銀に行って端末契約してくれって言われて。政銀に行ったら、無線LANが使えないなら、毎日銀行寄ってくれって言われて。
まったく、人の商売の邪魔してんじゃねえよ。たまたま近くに出張所できたからいいけど、出張所ないと西之表まで行けっていうのか。ただで端末貸してくれるかと思ったら、ちゃんとレンタル料取りゃがって。それも紛失したら売上ゼロのうえ、弁償って。あんな小さなもん、どこへ置いたか忘れちゃうぞ。
振込先が登録されているので、TEN端末は盗まれる心配はありませんって、どこぞの馬鹿が盗む可能性だってあるじゃないかよ。それに、中途半端に現金使わないといけないってのが頭くる。レジがもうひとついるってことじゃねえか」
オーナーの政府銀行への批判は酒がすすむと、
「この島から出ていけ。政府銀行。種子島じゃなくて佐渡島でやってろ! 罪人流すのはむこうが本場だ。もう金(きん)でないけど、金山でも掘ってろ」
などと、ただの悪口に変わっていった。
玉井も調子に乗り「佐渡島ならSTPだ」と叫ぶと、自ら手拍子を打ち、大声で歌い出した。
『 不便なくせに、レンタル料糞高い ぼったくりだぜ、簡易端末
そんなに金(かね)が欲しいなら佐渡島で金(きん)掘ってろ
金は出ないが、佐渡流し 役立たずの政府銀にお似合いだぜ
がんばれ、STP 燃えろ!海の家 くたばれ、佐渡島と種子島 』
江戸中期、佐渡島の金産出量の激減により、江戸幕府は小判の金含有率を減らした。貨幣が貴金属としての価値から幕府の信用価値に変わったのだ。そうした考えは江戸時代初期には詐欺とみなされ、採用されることはなかった。それが、貨幣不足のためにやむをえず行われ、結果として元禄文化が花開いた。それよりはるか以前、ローマ帝国も同様のことを成し遂げ、大発展をした。古代ギリシャにはその発想がなく、銀の産出量が発展の限界だった。
第一次貨幣革命では、貨幣の発行量コントロールが可能になった。現在進行中の第二次貨幣革命では、貨幣の分布状況コントロールを成し遂げようとしている。昔、佐渡島がくたばったとき、貨幣革命が起きた。今、種子島がくたばると、貨幣革命が頓挫する。
十時にはお開きにし、オーナーと一緒に勘定場に向かうと、十人ほどの若者の集団が、レジの前にたむろしていた。幹事らしき一人が「割り勘で」と店員に告げると、
「28,405円になります」と返答された。
「一人当たりいくら?」
店員は人数を数え、
「九名様ですから、お一人当たり3,156円で、後プラス一円になります」と答えた。
その一円を誰が払うかで、ジャンケン大会が始まった。皆酔っているので、なかなか勝負が付かず、すぐそばで待たされる私達の身にはつらいものがあった。
数分もかけてようやく敗者が決まり、九人全員がひとりずつ勘定をすませるのを待った。これが現金ならあらかじめ幹事が一人ずつ徴収し、まとめてレジで支払えばいいが、TENではひとりひとり支払う必要がある。その後私達の番だが、オーナーのおごりなので、一回の支払いですんだ。
勘定をすませると、「お互い、大変だね」とオーナーは若い店員に声をかけた。
「え?」
相手は何のことだか、わかっていなかった。
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