第13話 華 僕が病欠

冷んやりして、気持ちいい。

額の心地いい刺激に手を添えて、ゆっくり頬に添わす。

目を開くと、視界はほくとだった。

「目が覚めましたね。熱はもう無いようですよ。」

額で熱を診てくれていたらしい。

ほくと、なんで、いつから部屋に?」

「華が体調を崩していると、甘雨が教えてくれました。

さっき来たところです。大丈夫ですか?」

「うん。昨日昼に早退して寝たから大分良くなったみたい。

あれ、鍵開いてた?」

「うっかり合鍵を持ったままなんです。

悪いとは思いましたが、使わせてもらいました。」

破は年末に店を辞めたから、この部屋の鍵はもう必要無い。

僕も返してもらうのをすっかり忘れていた。

「何か食べますか?」

「まだ食欲は無いけど、少しなら。」

ほくとは手早く米を研いで、鍋でお粥を作り始めた。

僕はお粥はご飯を使うのが普通だと思っていたけど、料理好きの破は米から作った方が美味しいと安倍店長に教わったらしい。

出てきたのはお茶好きの破らしく、香ばしい茶粥だった。

ほっこり安心する味だ。

胃に少しだけ入れておくつもりが、美味しくてほとんど食べてしまった。


「お茶の教室は大丈夫なの?」

「次の生徒さんは夕方ですから、多少時間があります。

華、すみません。

せめて次が育つまで、店に居られれば良かったのですが。」

「家の都合だから破が気にする事じゃないよ。

それにしばらくしたら后くんが仕事覚えてくれるから。

甘雨だって居るし。」

「華があの店を好きなのはわかります。

けど、貴方の店ではないのですから、しっかり線引きして下さいね。

あまり忙しいようなら店長と労働条件を話し合うべきです。」

「わかってるよ。」

ほくとは普段穏やかな性格だけど、確固な価値観や守るべき一線を持っていて、それを超えた相手には容赦がない。

安倍店長との話し合いで、柔かな表情のまま口調だけが冷えていくのを何度か目にした。

そういう時の破は僕でも止められないから、怖い。


「では、長居しては悪いですから帰ります。」

「家遠いのに、来てくれてありがとう。」

「無理しないで下さいね。必要ならいくらでも呼んでください。」

そう言ってほくとは部屋を出た。

おかげで元気になった気がする。

もう一度寝れば、明日はきっと大丈夫だ。

合鍵の事が頭の隅にあったけど、もう言わないことにした。

破が『うっかり』忘れるなんて事はないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る