フルメタルパニックで言えば相良ではなくクルツです
剣道部時代―と言うか私が小説/ライトノベルを読み始めた頃は、知識量で負ける先輩に好き勝手?掌で踊らされましたが、逆に私がしてやったりって時もたまーにはあったんです。
ある日。私は剣道部の練習が終わった後、着替えている途中の先輩を覗きました。
何故覗いたのかと言えば、読んだライトノベルの描写に男性の裸体描写が出たのですが、小説のキャラクターがどことなく先輩に似ていたので、想像力(妄想力?)に磨きをかけるべく、先輩の裸体を覗いたのです。
まぁ普段から男性の裸体はよく見ているのですが(剣道部でしたので)、先輩のそれは見たことがありませんでした。こう書くと変質者っぽいですが、当時の私は真剣でした。
それだけいつの間にか、読書/ラノベが生活の中心だったってことだと思います。
剣道部に与えられた剣道場はそれほど広いわけではなく、男子と女子との着替え場に隔たりはありません。廊下の端が用具室の様になっていて外から見えないので、そこで女子が着替えをし、男子は開けっ広げな玄関付近で恥じらいもせずに着替えるのです。
女子は当たり前ですが、隠れようとすれば隠れられます。ですけど、もし男子をのぞこうと思えば、ちょっと用具室から顔を出すだけで覗けたんです。
胴着から制服に着替えをしていた先輩。背は高く、線は細い。胴着の胸元から覗いている胸板はちょっと厚い気がする…
確かにその体は、引き締まっていました。それでも眼鏡をかけたその顔は…かっこいいとは言えないなぁ、とぼんやりと思ったものです
剣道部は面を(手拭いで髪をまとめてから)頭につけるので、脱いだ後は髪がくしゃくしゃ。眼鏡も曇っている。
お世辞にもかっこいいなんて今の状態で言ったら、むしろ”本物”に失礼に当たる。
だけどもし、髪の毛を整えて、眼鏡をはずしていたらどうだろう?
横目で見ていた私は、次第に先輩を凝視し始めました。
目に入ってくる先輩の姿を、脳内のフィルターに通して理想形に変換していく。
うーん、悪くないかも。
私は小さく笑みをこぼしました。だけどどうやら先輩に気が付かれたようです。
先輩と視線が交錯する。しまった!そう思った時にはもう遅かったのです。
だけど先輩は、すぐに顔をそらしました。
いつもであれば先輩は”眉を潜め、ため息をつく”ような気がしたからです。先輩のどこか人を小馬鹿にした態度(まぁからかってるつもりなんだろうけど)、上から目線、掌の上で私を躍らせようとする策略。
それらがその時は感じられず、私は首をかしげました。
さて一体先輩は何故顔をそらしたのか?その答えはすぐにわかりました。
私は未だ胴着姿、防具を外した所為で若干胸元がはだけていたのです。
まぁとはいっても、別に胸が見えているわけでもありませんし、ブラが見ている訳でもありません。
いつもよりちょっとだけ、肌の露出が多いだけです。本当にちょっとだけでした。
だから私は恥ずかしさなど感じていなかったのですが(これも恥じらいがありませんね)、そういう態度をとられると気にしていなくても、恥ずかしさを感じてしまいます。
慌てて私は胸元を隠し着替えました。
着替えの最中、先程の先輩をぼんやりと思い返します。
気持ちの分だけ顔が赤かったのかな?そんな風に思えました。
先輩が恥ずかしがるなんて滅多にない事です。次第に私が抱いた恥ずかしさは、上げ足を取ってやろうという気持ちに変わっていきました。
先輩とは途中まで帰り道が一緒なので、大体自転車を押して(乗ってもいいのですが、読書の話が意外と弾むので、いつも押して帰っていました)一緒に帰っていました。
その日もそれは変わらず、着替えを終えた私と先輩はゆっくりと家路についたのです。
ですがいつも先輩が揚々と話す小説の話は出てきません。
恥ずかしがっているのはすぐに分かりました。まぁ当時、いくら先輩と言えまだ中学生。純朴なお年頃だったのです。今思えば先輩もかわいいものですね。えぇ。
そんな先輩の素振りに、私はしてやったりと口を開いたのです。
「先輩、フルメタ好きでしたよね?」
「あ、うん。すきだけど?」
フルメタ=フルメタルパニック
有名なラノベです。今でも漫画などの刊行があったり、再アニメ化もするみたいなので知っている人も多いかと思います。
ストーリーは正に王道。ボーイミーツガール?ガールミーツボーイ?
現代よりも技術が一部(主に軍事技術)進歩しており、ASと呼ばれる人型ロボットが戦場を駆ける世界。
主人公は日本で普通に暮らしていた女子高生、千鳥かなめ。
ある時、彼女のクラスに奇妙な男子が転校してきます。彼の名前は相良宗助。
彼はなぜか千鳥を付け回します。しかも世間知らずで、千鳥は彼の突飛な行動に振り回されます。一度は彼を理解しかけた千鳥でしたが、決定的な瞬間(パンツ泥棒)を目撃して、彼と仲違いするのです。
ですが彼の突飛な行動は、千鳥を守る為だったのです。
実は相良は秘密組織ミスリル所属の軍人(傭兵?)で、千鳥を陰から守っていたんです。
千鳥は彼女自身知りませんでしたが、彼女の持つ特殊能力の為に、テロ組織から狙われていました。そんな千鳥を護衛する為に派遣されたのが、相良宗助です。
そして修学旅行で乗った飛行機…そこで起きたハイジャック事件を機に、彼女は自身の能力と、相良の正体を知るのです。
シリアスな長編と、軽快なギャグの短編集、まさに現代ロボットSFの金字塔と言っていい作品です。
ここまでバランスのいいライトノベルも、なかなかないかと思います。
王道であるからこそ誤魔化しがききません。ごまかす必要がない作品なんです。
ギャグ短編は非常にテンポが良いですし、シリアスな本編は手に汗握る。
私としては健気なメリッサ(サブヒロイン)がお気に入りのキャラクターだったりします。
そのフルメタルパニックに、相良の仲間として出てくる「クルツ」=スナイパーがいるのですが、これがむっつり。というか、スケベな二枚目?三枚目?キャラなんです。
その時の私には、肌蹴た胸元を見て顔を赤らめる先輩を表現するのに、それ以上の言葉はありませんでした。
クルツには先輩ほどの純朴さは欠片もないですが、だからこそ先輩の心に刺さる一撃となるはずだと確信して、
「先輩、クルツみたいですね」
私は笑いかけたんです。
先輩は何も言うことなく、少しだけ足を速めました。短い後ろ髪からちらりと見えた耳が赤かったのは、きっと夕焼けのせいではないはずです。
なんてそれっぽいこと書きましたけど、改めて思い返すとこれは先輩が恥ずかしい話ではなくて、私が恥ずかしい話ですね。
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