10 ここは、夏の海
白いワンピースはどこまでいっても、お伽のようだった。
ところどころに、控えめなコットンレースがあしらわれているせいだろうか。どうにも子供っぽかった。
嫌いなわけではない。
背中の真ん中で切り揃えられた髪が、さらさらと揺れるのも、くるくると回る度にふわりとその裾が舞うのを、恥ずかしそうに抑える手も。
『海、見に行こうか』
俺がそう言うと、まんまるな目をすうっと透き通らせた。
なにも言い返してこないのに、全部理解したんだとわかってしまう。
わかってしまうだけの距離にいたんだ。
ずっと
ずっと
便利な言葉。
仲の良いお友達の1人です、といいながら。
『熱くないね』
着くなり低いヒールのパンプスを脱いで、それを左手の指ににまとめて掛けたまま、裸足の足が砂浜に埋もれていった。
あっという間に、膝下あたりまで砂まみれにしたかと思ったら、あははっと楽しそうに笑う。
多分、俺の撫で肩からリュックがずり落ちたのを、手を叩いて笑った時くらいのテンションで。
『何やってんだよ。ベトベトじゃん。足!』
砂が熱いはずない。
真冬の海に、夏の太陽熱を蓄えた、あの砂浜の焼けるような熱さがなんかあるわけがない。
守ろうとしてるんだ。
約束を。
いつか“夏には”海にいこうってのを。
ひとけのない冬の海に、弾けるような明るさはない。
曇り空が薄く雲を広げていて、平日の昼過ぎだというのに、まるでこの世の終わりのようで、色がない。
いや。
夏だ。
今、ここは夏の海なのだ。
俺ら2人にとったら。
『ねぇ、何カッコつけてんの?』
『はぁ?』
『そんなとこで座ってないでさ。ほら!遊ぼうよ!』
打ち寄せる波に、ちゃぷんと足をつけて、
『何これー!冷たぁぁ!』
と、叫ぶ。瞬殺で設定吹き飛ばしながら、あはっと笑う満面の笑顔に、重くのしかかってたものを、どすんと落とした。
俺がパンツの裾をクルクルと巻き上げたのを見ると、にやりと笑って手招きをする。
その手に着ていたグレーのパーカーを差し出すと、『‥‥またこれ‥‥』と苦笑いしたから、睨み返すとまた嬉しそうに海に足をつけた。
『うお。つめてー!よく入るな?』
『気持ちいいじゃない』
『どこが!』
『引き締まる。だから、いい。これで。』
ペタペタ、と足音を鳴らしながら歩く波打際を、その後ろからついていく。
潮風が、ふぉっと吹き付けて綺麗な髪がまた、目の前で踊った。それを目で追うと、視界が滲む。
卑怯にも。
あぁ。だめだ。
設定を守らなければ。
夏の、海だ。
きっと頭上には、入道雲がモクモクしてる。
日差しに顔を真っ赤にして、俺らは子供みたいに大はしゃぎしてるんだ。
砂浜に、互いの名前とハートマークかいたりして、波にさらわれるそれを、きっとあのテンションで笑いながら。
『‥熱いな』
『‥うん。』
『‥かき氷、食いたくなるな』
『焼きそばも。』
『おお。‥‥うん。』
『紅生姜のとこあげる』
『‥そりゃ、まぁ。どうも。』
『‥だから、お肉は私の。』
『マジかよ』
曇り空が薄く雲を広げていて、平日の昼過ぎだというのに、まるでこの世の終わりのようで、色がない。
いや。
夏だ。
今、ここは夏の海なのだ。
俺ら2人にとったら。
『翔ちゃん。何カッコつけてんの?』
『あぁ?』
『そんなとこで、オトコマエに座ってないでさ。ほら!遊ぼうよ!』
打ち寄せる波に、ちゃぷんと足をつけて、
『何これー!冷たぁぁ!』
と、叫ぶ。瞬殺で設定吹き飛ばしながら、あはっと笑う満面の笑顔に、重くのしかかってたものを、どすんと落とした。
俺がパンツの裾をクルクルと巻き上げたのを見ると、にやりと笑って手招きをする。
その手に着ていたグレーのパーカーを差し出すと、『‥‥またこれ‥‥』と苦笑いしたから、睨み返すとまた嬉しそうに海に足をつけた。
『うお。つめてー!お前、よく入るな?』
『気持ちいいじゃない』
『どこが!』
『引き締まる。だから、いい。これで。』
ペタペタ、と足音を鳴らしながら歩く波打際を、その後ろからついていく。
潮風が、ふぉっと吹き付けて綺麗な髪がまた、目の前で踊った。それを目で追うと、視界が滲む。
卑怯にも。
あぁ。だめだ。
設定を守らなければ。
夏の、海だ。
きっと頭上には、入道雲がモクモクしてる。
日差しに顔を真っ赤にして、俺らは子供みたいに大はしゃぎしてるんだ。
砂浜に、互いの名前とハートマークかいたりして、波にさらわれるそれを、きっとあのテンションで笑いながら。
『‥熱いな』
『‥うん。』
『‥かき氷、食いたくなるな』
『焼きそばも。』
『おお。‥‥うん。』
『紅生姜のとこ、翔ちゃんにあげる』
『‥そりゃ、まぁ。どうも。』
『‥だから、お肉は私の。』
『‥‥‥マジかよ』
おかしいなぁ。
もういっそこのまま時、止まらないかな。
こんなはずじゃなかったのに。
足は、どんどん冷えてく。
真っ赤になって、陽も静かに沈んでいく。
あぁ、そうか。
『‥‥なぁ。』
『ん?』
『時、止めちゃうか?このまま』
まんまるな目は、やっぱり透き通っていった。
雫を貯めたそれは、ゆっくりと瞬きするから、ぽたんと落ちて、夕日を反射して光る。
すっと俺の頬に指先が触れる。
夏の海のはずなのに、冷たくて冷たくて、抱きしめてやりたいくらいのが。
『もう、おしまい。魔法も、解けた。』
ぽたん、ぽたん。
オレンジに光る雫を落としながら、真っ赤に照らされて笑う。
白いワンピースが、ふわりと風に舞って髪も踊る。
それに視線を揺らしながら、
『うん。‥‥じゃぁ、おしまい。』
まさか、言うはずなかった事を笑って言った。
Song@嵐 「君がいるから」
缶コーヒー、1本分。 おととゆう @kakimonoyuu
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