第131回『天国の耳』→落選

 今日の新入りの一人は、耳が無かった。

「おい、お前。耳はどうしたんだよ!?」

「……」

 古株の一人が声を掛けたが反応がない。耳が無いから聞こえていないのだろう。

 すると近くにいた別の新入りが声を返す。

「コイツに何を言っても無駄ですよ。耳だけが天国に行っちまったんです」

「耳だけが?」

「そうなんです。コイツは生前、耳たぶが異様に長くて、近所のお年寄りから有り難られてたんです」

「お前たちはダチか? なんでココに来ちまったんだ?」

「オレオレ詐欺でしくじっちまったんですよ」

 地獄に来るくらいだから相当稼いだに違いない。

「コイツはすごく聞き上手で、電話に出ると長くてしょうがなかったんです。五時間って時もありました。でも不思議なことに、長電話の時ほど稼ぎが良かったんですよ」

 すると耳のない新入りは急にニヤニヤとし始めた。

「なんだよ、コイツ。幸せそうな顔をしてるぜ」

「天国では心地の良い音が溢れているらしいんです」

 うっとりと目を閉じる新入りの前で、男が二人腕を組む。

「どんな音がしてるんだろうな」

「そうですね、俺も聞いてみたいです……」

 果てしなく広がる真っ暗な地獄の天井を見上げて、二人は目を細めるのだった。

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