第124回『メビウスの帯』→落選

「ねえ、私達、何でも二つに分けましょ?」

 新婚初夜、枕元で妻がささやいた。

「離婚する時に備えてね」

 何もこんな時に、と思わなくもないが、そんなドライな彼女が好きだった。

「子供はどうする?」

「偶数にして親権を分けるのよ」

「じゃあ、今日授かるかもしれない子は俺が貰ってもいいかな? 育休は取るからさ」

「わかったわ。二人目は私ね」

 こうして俺達は何でも二つに分けた。まるで、結婚という道にセンターラインを引くように。

 やがて道は下り坂に差し掛かる。

「疲れたわ。そろそろ離婚しない?」

「ああ、いいぜ。普段から分けているから手続きは簡単だな」

「財産も相続も分けているしね。私の財産は子供一人、孫二人への相続よね」

「俺もそうだ。ん? 待てよ、息子のところってそろそろ産まれるんじゃなかったか?」

「んもう、何よ。これじゃ、離婚できないじゃないのよ」

「まあ、もうしばらく待とうぜ」

 その後もセンターラインを引く結婚生活が続いた。

「子供一人、孫三人、曾孫七人、玄孫十七人で数が揃ったわね」

「ようやく離婚できるな」

「ついにやったわね」

「そうだな、おめでとう」

 世の中にはセンターラインで切ると一つの輪になってしまう帯があるらしい。

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