第4章 民族を識る民族(ヒトヲシルモノ)

第1話  夢の光景を拾う 1

――とーしゃ、かーしゃ。

「ん? どうしたんだ、ワクァ?」

――あのね、おはな。

「まぁ、綺麗なお花を摘んできてくれたのね。ありがとう、ワクァ」

――とーしゃ、かーしゃ。おはな、すき?

「えぇ、大好きよ」

――ぼくは?

「ワクァの事は、もっと大好きだ」

――あのね、かーしゃ。

「? なぁに、ワクァ?」

――あのね、おうた。おうたうたって。

「あら、もうおねむなのね?」

――おうた。おうた!

「はい、はい。慌てなくても、ちゃんと歌ってあげるわよ」

――

「――――」



# # #



「……っ!」

 覚醒と共に跳ね起き、ワクァは辺りを見渡した。まだ夜は明けていないのか、周囲は暗くシンと静まり返っている。部屋に一つしかないベッドにはヨシとマフがまだぐっすりと眠っている。ぐっしょりとかいた寝汗が夜気に冷やされていくのを感じながら、ワクァは天井を見上げた。見上げても、そこにあるのは暗い天井だけだ。

 今ここに太陽の光は無い。ここは、陽のあたる花畑でもない。ここに、顔も覚えていない両親はいない。夢とあまりに違う光景に、ワクァは思わず溜息をついた。

 先日走馬灯を垣間見た一件以来、時折過去の記憶に迫る夢を見るようになっている。だが、現実では未だ手がかりらしき物は何一つ手に入れていない。溜息の一つもつきたくなるというものだ。そして、もうひと眠りしようと毛布を被り直す。

 だが、二度目の眠りで先ほどの夢の続きを見る事はできなかった。

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