第11話 友情を拾う 6

「大猟、大猟! これなら当分おかずにゃ困らねぇな」

 森の一箇所に集められた本日の収穫を見て、アークは満足そうに言った。目の前には大柄の鹿が二頭に、野うさぎが五羽。ついでに見つけた食べられる木の実、草の芽、その他が背負ってきた籠に一杯。おかずに困らないどころか、少人数であれば宴会だってやれそうな量だ。

「しっかし、トゥモ! お前の投げナイフは、相変わらず百発百中だな!」

 そう言って、アークが嬉しそうにトゥモの肩を叩く。そう、トゥモの投げナイフは本当に凄かった。長年傭兵奴隷として戦ってきたワクァは今までに何度か投擲武器を使う人間とも戦った事があるが、ヨシは例外にするとしても、トゥモほど使いこなせている人間にはお目にかかった事が無い。何しろ、腕だの足だのからナイフを抜くと、一秒と待たずに投げる。狙いを定めている様子は全く無い。なのに、投げたナイフは必ず獲物に命中しているのだ。これはもう、ナイフ自身に意思があるとしか思えない。そう思わせるほどに、トゥモの投げナイフは正確だった。もっとも、たった二時間の狩りの間に六回木の根に躓き、三回木から落ち、二回池や川にはまった事を考えてしまうと、あまり凄いとも思えなくなってしまうのだが……。アークに誉められて照れるやら誇らしげになるやらのトゥモを見ながら、ワクァはそう思った。そんなワクァに、若者達が不意に声をかける。

「ワクァもすげーな! あんなに速く走れる奴見たの、俺初めてだよ!」

「だよな。やっぱ、すげー訓練したんだろうな」

「うん。それに、初めてだってのにあっという間に狩りのコツを掴んじまったみてぇだし。やっぱり戦闘経験のある奴は違うな」

 口々に言われて、ワクァは何と返せば良いのかわからず、困った顔をした。すると若者達は「照れるな、照れるな」と言って親しげにワクァの肩や背を叩く。ワクァが大分馴染んできた様子を嬉しそうに見ながら、トゥモはふと思い出したように若者の一人に言った。

「そうだ。ナツリ、さっきキハルを見たっスよ。他の子達と一緒に、かくれんぼをしてるみたいだったっス」

 トゥモがそう言った途端、若者達の間にザワッと言う波紋が広がった。その様子にただならぬ雰囲気を感じたワクァは、すぐさまトゥモに訊く。

「キハルとは誰だ?」

「ナツリの弟っス。ナツリのところは兄弟の歳が離れてるっスから、まだ五~六歳っスけど……」

 トゥモも普通ではない皆の様子に気付いたのか、はばかりながら言う。そのトゥモに、ナツリという十五歳の少年は必死の形相で訊いた。

「どこだ、トゥモ!? 何処でキハルを見た!?」

「え……む、向こうの方っスけど……」

 トゥモが困惑しながら指を刺すのとほぼ同時に、小さな子どもの悲鳴が聞こえてきた。そして、「誰か助けて!」という叫び声も。

「キハル!!」

 瞬時に、ナツリは声のした場所めがけて走り出した。その後に、ワクァ、アーク、トゥモ、それにその他の若者達も続く。

「いざという時は……頼むぞ、リラ……!」

 いつものように士気を上げようと、周りの誰にも聞かれないように小さな声で呟く。平穏が崩れたのを感じながら、ワクァは腰の愛剣・リラに手をやった。

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