第9話  厄介ごとを拾う 5

 ワクァとシグが完全に屋敷に入ったのを見届けてから、付き添いに付いてきた男は屋敷に背を向けた。

 本当は、ずっとこの場に留まり続け、事の成り行きを見守っていたい。付き添いなのだから、二人が屋敷から出てくるまで待っていたところで、それほど不審には思われないだろう。だが、付き添い役を買って出た時にワクァは言った。

「万が一という事もある。俺たちが屋敷に入ったら、あなたはすぐに皆のところへ戻って欲しい。もし何か起こっても、屋敷の中にいては助けようがないからな」

 そう言われてしまっては、流石に引き返さざるを得ない。何せ、武道の心得がある門番ですらやられてしまったのだ。有事の際に一般市民である自分が敵う可能性は、極めて低い。

 幸い、門番の盗賊達は全くワクァの正体に気付いた様子がない。誰一人としてワクァに付いて屋敷に入っていかないのがその証拠だ。

 ワクァは、マロウ家の屋敷の場合、規模的に門の番には最低三人が必要だと言っていた。何かが起こった際には二人が門を守り、一人が屋敷の中に報せる仕組みにしておけば、大抵の敵は防げるからだと。

 四人以上張っているようだと三人を残して一人が手紙を頭に届けるという形になり、ワクァ達は屋敷に入る必要が無くなる。だが、幸い番をしているのは三人。だから、ワクァ達が屋敷内に入る事ができた。それでも、少しでも怪しいと思ったら一人がワクァ達に付いて屋敷に入ろうと考えるだろう。それをしないという事は、彼らがワクァ達を完全に力の弱い女子どもであると思っているという事。

 つまり、今のところ作戦は上手くいっている。なら、自分が下手な心配をして作戦の邪魔をするわけにはいかない。だから、男はワクァを信じて屋敷から離れる事にした。

 それでも、やはり気になったのだろうか。男は一度だけ後を振り向き、祈るように呟いた。

「頑張ってくれ、ワクァさん……シグ……!」

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