第5話  厄介ごとを拾う 1

 講堂には、既に大勢の大人達が集まっていた。各々が落ち着く事無く何かを口走り、室内はざわざわという音に満ちている。集中して聞かなければ、隣の人間の声すら聞き逃しそうな喧騒だ。そんな中、扉を開けて入ってきたワクァとシグに気付いた一人の男が、非常に驚いた声をあげる。

「シグ! お前、どうしてここに!?」

 その声に、講堂にいた大人達は一斉に……とはいかないが、波が伝わるように次々とシグに注目し始めた。その様子に「え?」と戸惑っているシグに、先ほどとは別の男が真剣な表情で言う。

「領主様の屋敷は今、大変な事になっているらしいぞ。何でも、屋敷の中に沢山の盗賊が入ったって……門番の一人が傷だらけになって駆け込んできたらしい」

 それを聞いた瞬間、シグの顔がザッと蒼ざめた。目は見開かれ、歯がカチカチと音を立て始める。

「そんな……! ファルゥ様……!!」

 震える声で、呟く。そして、その瞬間シグは弾かれたように地を蹴り、講堂から走り出ようとした。咄嗟にその肩をワクァが掴み、その場に引き止める。

「落ち着け! 焦って行動したところで何も解決しはしない。……まずは何が起こったのか、話を聞くんだ」

 冷静にワクァが諭すと、シグはそれでも落ち着く事ができない様子で責め立てるように言う。

「ワクァさんは心配じゃないんですか!? お屋敷の中には、ヨシ様もいらっしゃるんですよ!?」

「ヨシなら大丈夫だ。あいつは盗賊如きが何かできるような人間じゃない」

 何かしようとしたところで、返り討ちにあうだけだ。ヨシと旅を始めて三ヶ月……流石にヨシの気性や隠された腕前がわかってきたワクァは全く心配している様子が無い。しかし、それでも納得できないシグは「けど……」と呟く。そんな彼の肩をポンと軽く掌で叩き、ワクァは言った。

「大丈夫だ。俺達を信じろ」

 その声と表情には、絶対に何とかしてみせるという決意と、それを実行できるであろう充分な強さが宿っていた。それを肌で感じ取ったシグは、やっと落ち着きを取り戻し、「はい……」と弱々しく返事をした。そして、講堂にはようやく静寂が訪れた。

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