Impact
「弟子にしてと言われましても…」
「師匠!」
「……もうそう呼ぶんですか。まあいいでしょう。名前を聞いてもいいですか?」
「マリです! 師匠、私でも魔術は使えますか?」
「ええ。護符を使った魔術なら、一般の方でも使えますよ」
「なるほどー。じゃあそれを教えてください!」
「……元気ですね」
「今はテンション上がりまくってんですよ!」
師匠は呆れ、弟子は興奮気味のもの凄い温度差。
取り敢えず家へと帰る途中だった師匠のあとをついていった。
そこには右に傾いた木造の一軒家が森の奥深くにさみしく建っていた。
「…おんぼろですね」
「…きみは正直だね」
「それが長所です! エッヘン」
「嫌みな長所ですよ…。雨漏りはしないんで問題ないです。――どうぞ」
「おっじゃまっしまーす!」
マリを迎えたのは本棚だった。
壁一面隙間なくぎっしりと敷き詰められた本たち。それはどれも魔術についての本だった。
中二階を上れば、そこにも本がたくさんあった。足元にも不安定な形で積み上げられている。図書館か資料庫のようだ。
ためしに一冊手に取ってみた。
「…………」
「弟子にするといっても、私も弟子をとったことがないので何から教えていいか分からないんですよ」
「…………」
真剣な表情でページをめくる。
「……その本、理解できてます? 一応国家魔術師しか理解できない複雑な術式とか理論とか書いてありますけど」
「師匠」
「……なんでしょう」
マリの表情はひどく歪んでいる。今すぐにでも泣きそうだ。
「まずは字の読み書きからお願いします」
「…読めなかったんですね」
「読めなかったんです。なんですか、この字体は。筆記体でも漢字でもない、ましてや平仮名でも。さっぱり分からんっす」
「はあ…、分かりました。教えましょう」
「その前に、軽く食事でもいかがでしょう」と言われ、マリは頷いた。
少し小腹も空いていたし、何よりこの世界での初めての食事。ワクワクする。
師匠が食事の準備にU字型の台所らしき奥の場所へと向かっていった。
マリはテーブルを片付けることにした。4センチの分厚い本3冊を取り敢えず床に積み上がっている本のタワーに乗せる。一瞬グラついた。
インク瓶に刺さった羽ペンに、テーブルに散乱している洋紙を整え端に寄せる。
テーブルを拭くため、師匠のもとへ駆け寄った。
「師匠、テーブルを拭きたいので布巾ください」
「そんなの魔術で…」
「教えてくれるんですか!」
「……そこに布があるので使ってください」
「はーい!」
食器の上に重なっていた布の一番きれいなものを取り、濡らして絞る。
気になった料理はというと、どうやらスープのようだ。
鍋を覘いてみるととても美味しそう、に見えない紫色のドロドロとした液体があった。
「今、何を入れようとしてますか、師匠」
「カエルですが」
「それはなぜでしょう」
「タンパク質とか? ですかね」
「……私、インパクトは求めてないですよ?」
「別にインパクトは入れようとしてませんけど」
「どう見たってこれ食べ物じゃないですよね!? ゲスい罰ゲームですよね!」
「見た目はアレですけど、結構イケますよ」
「…………」
結果、不味かった。
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