第35話③ 子供(出産)

 その日は朝からお腹が痛かった。

 病院に行くと陣痛といわれた。

 即入院になったので、学校にはその旨を伝える。

 予定日は明日。

 妊娠初期の頃、医師におしえられた予定日の正確さに驚く。

 母に電話したら来てくれた。

 少し安心できた。


 ついにユキくんの赤ちゃんと対面だ!


 痛いけど嬉し過ぎる。


 陣痛の波の間隔が短くなっていく。

 そして分娩室へ。


「おぎゃー!おぎゃー!…」


 元気な産声が上がる。

 安産だった。

 男の子だ。

 通院しているとき、性別は伏せておくように頼んでいたから今知った。


 無事、生まれてきてくれてありがとう!


 生れたての赤ちゃんを抱かせてもらう。

 軽くて重い不思議な感触。

 ふやけて変な色。

 しわくちゃで小さい。

 一生懸命泣いている。

 純粋に感動し、涙が溢れた。


 体重と身長を測定するため一旦別の部屋につれていかれ、桃代は産後の処置をする為処置室へ。


 改めて綺麗に拭かれた我が子との対面。

 すやすやと眠っている。

 おもいっきし桃代似だ。というか、ユキは顔が薄いので全く特徴が出てない。


 少しぐらい似ていてほしかったな。


 というのがホントの気持ち。


 その後、抱き方とか授乳の練習とか、諸々の注意事項がある。

 母子手帳も貰った。

 生れた日時、身長、体重が書いてある。

 開いてみると、歯科検診、予防接種など事細かに記すようになっている。

 12歳までは必要なので大切に保管するよう言われた。


 産婦人科はホテルみたいだった。

 少子化が進む今、客?患者?の取り合いが激しい。

 部屋が豪華、食事がウマいは当たり前。

 病院によっては、テレビに出演するような有名シェフが、出張で料理を作ってくれるんだとか。

 食事の他にも色々なサービスがあると聞いた。

 例えば出産風景の撮影。

 あとでDVDを貰える。

 他には誕生石の付いた小さな指輪、臍の緒を入れておく箱が一緒に貰える。

 そして、臍の緒を切る儀式?を旦那さんにしてもらえるサービスとかもある。


 普通に結婚してユキくんに切ってもらいたかったな。


 ともあれ。

 最愛の人との子供を授かることができた。


 幸せだ。欲を言えば、今この場所にいてほしいけど…。



 退院するまでの間、毎日誰かしら友達が来てくれた。

 ホントにありがたいことだと思った。

 ただ、そこにユキがいないのが寂しい。

 初めての子供の出産。

 絶対にいてほしかった。


 子供が生まれてもなお忘れられない。

 あの時発作的にやってしまった過ちを、心の底から後悔する。


 出産は病気じゃないので保険がきかない。

 産んだ後、一旦4~50万払わなくてはならない。ただし、一旦払うだけで、あとから全額返ってくる。とはいえ学生で、バイトもしていない桃代に払えるわけがない。親に話してよかったと、この時ばかりは思った。




 そして退院。


 命名「有喜」


「ゆうき」と読む。

 名前の由来…ユキから取った。


 もう二度と逢えんし。いいよね?


 幼馴染や友達からは呆れられたけど。


 役所に出生届けを出しに行き、帰宅。

 特例として寮にこのまま住んでいいということになっている。

 ありがたい話だ。

 帰りはお母さんと二人の美咲、渓と澪と一緒だった。

 病院は学校の近所なので歩いて帰る。


 寮に帰ると新生児に必要なモノで結構いっぱいになっていた。

 特に紙おむつ。

 かさばるので、部屋の一角が完全に埋まっている。

 圧迫感がすごい。



 次の日から学校に復帰した。


 子連れ女子大生。


 目立つどころの騒ぎじゃない。

 キャンパス内を歩いただけで注目されるし、教室に入ったらいろんな人から声かけられ、物珍しそうに見られる。

 授業中、泣き出したときは流石に焦ったが、教授たちにも話がいっているらしく、優しく「飲ませてあげなさい。」と言われてしまった。

 教室を抜け、廊下のベンチでおっぱいを飲ませる。

 見られてもはずかしくないように、赤ちゃんごと覆うことのできる授乳用の服を着ている。

 飲ませ終わるとゲップをさせる。

 産婦人科で入院中に練習した。

 縦に抱え肩に赤ちゃんの顎を乗せ、背中を軽く叩いてあげる。

 すると


 トントントン…


「ゲフ~」


 大成功!

 これをやらないまま寝かせると、ゲップでせっかく飲んだ乳を吐いてしまう。


 大人しくなったところで教室に戻り、講義の続きを受ける。


 今、有喜は絶賛黄疸中。

 産まれてすぐ起こる儀式みたいなもの。

 日に焼けたみたいな肌の色で、白眼が黄色い。

 これも、徐々に退いていくのだと説明を受けている。



 前期試験も終わり夏休み。

 やはり帰省はしない。

 幼馴染は帰ったが、有喜がいるから心強い。

 首も座ったのでだいぶん楽になった。

 関東の美咲は学校の近所が実家でバイトもしてない。

 理系はレポートが忙しくてバイトなんかする余裕はない。だから、毎日来てくれる。

 あと、この頃よく来てくれるようになった澪。といっても中学までつるんでいた桜井澪じゃない。同じ中学だったがクラスが多いため面識はなかった。桃代は傷のこともあり有名人だったため澪の方が知っていた。

 女子が圧倒的少ない工学部。当然女子は女子で集まる。だから、一年の早い段階からそれなりには付き合いがあった。話すうちに同じ中学ということが判明し、よく喋るようになり、今に至る。



 洗濯したり昼ご飯作ったりでまあまあ忙しい。

 休みに入ると殆どの学生が帰省するため、寮の食堂が休みになり、自炊しなくてはならなくなる。

 でも、こんなとき手伝ってくれる友達がいて心から嬉しく思う。

 出産して寮に戻ってから今まで、一人で有喜の世話をした日が全くないほどだ。

 本当にありがたい。

 男子も山崎を筆頭に、分からないなりにも手伝ってくれる。

 将来みんなに赤ちゃんできた時、今のこの経験が少なからず役に立つはず。というか、役に立ったらいいな。

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