9 フラグ一斉回収
行きと同じように三人で家路をたどる。
弓菜「先に帰ってくれてもよかったのに」
博士「そういうわけにもいかないだろう」
弓菜「でも恥ずかしくない?」
そりゃ恥ずかしいよ。
覆面タッグチームと帰ることになるとは思ってなかったからな。
博士「また危ないことが起こるかも知れないしな、恥ずかしいぐらいは仕方ねえ」
弓菜「そっか、ありがと」
素直に感謝された。
いろいろと残念なところもあるが本質的にはいい子なのだ。
博士「でもちょっとだけ寄り道させてくれ、どっかにATMないか?」
財布の中は空に近い。
さすがに41,120円は痛かった。
悔しいので心の中で2回言う。
さすがに41,120円は痛かった。
弓菜「お金いっぱい遣わせちゃった、ごめんね」
博士「気にすんな」
男の子としては見栄を張っておきたい。
妹分にこれぐらいで罪悪感を持たれるのも勘弁だ。
歩「ATMならコンビニより銀行のがいい。コンビニのは手数料がたかい」
そうだな。108円お得だ、それか216円お得だ。
なので最寄りの銀行に入る。
時間帯が悪いようで結構な人が並んでいるが今更なのでしばらく待つことにする。
博士「そういやお前、さっきからオナラしてないな、治りつつあんのか?」
あゆはあいかわらず何はばかることなくプープーさせているが、気づけば弓菜の尻は静寂を保っている。
弓菜「こんな人が大勢いるとこでオナラの話なんかしない」
小声で怒られた。
博士「すんませんした」
確かにデリカシーが足りなかったか。
我慢してるのなら悪いことをした。
だが我慢のしすぎは良くないぞ、適度にスカシでも入れたほうがいい。
弓菜「けぷ」
まさかオナラの逆流ではないだろうが弓菜が小さなゲップをした。
無理してなければいいのだが。
ふと窓口の方を見ると見覚えのあるアフロが順番待ちをしていた。
博士「あ、さっきのクレープ屋さん、ご無事でしたか」
手を上げて挨拶をする。
クレープ屋さんとは呼んでみたものの、その呼び方ははたして正しいんだろうか。
お店は爆発してなくなっちゃったわけだし、現在進行形でクレープ屋さんではないよな。
例えば「かつてクレープ屋さんだった人」とか?
まさか「無職」とは言えないし。
式部「あー! 消防車呼んでくれた人! おかげさまで助かりました」
だが呼ばれた本人はその呼ばれ方で問題ないようだ。
わざわざこっちに来てまで丁寧に返してくれる。
傍の謎の覆面にレスラー気づいてぎょっとした顔をされるが、爆発直前のお客さんだということはなんとなく察したようだ。
何らかの事情を訊いてみたいが何をどう訊いていいのかわからない、そんな感じ。
博士「こいつらのことは気にしないでください。顔に怪我したとかじゃなくて、ただのプロレス好きですから」
式部「そうですか、良かったです。自分、花房式部といいます」
お公家さんの出身でもなかろうが小太りアフロのくせになかなか典雅なお名前ですな。
アフロにしてしまったのはわれわれですけども。
因幡修太郎です、とこちらも自己紹介。
後ろのマスクマンたちのプライバシーには触れない。
屁で店舗を燃やしたことに気づかれても厄介だ。
式部「新しい屋台を買わないといけないんでね、ローンの申請ですよ」
おいおい、さっきの今だぜ、精神的にタフだなこの人。
式部「今度は不慮の事故を起こさないようIH式の調理器にしようと思います」
ちゃんと失敗を糧にしている。
式部「火災保険が下りるまでのんびり待ってるわけにはいきませんし」
良かったよー、火災保険にも入っててくれたよー。
後ろめたさのパラメータが標準値よりちょっと多いくらいまで下がる。
なにげに病院の前に俺が漏らしたどうでもいいフラグを全て回収してくれている。
式部「何より食べさせていかなきゃならない弟妹が多いもんで」
そして苦労人でもあった。
同年代ぐらいだと思うがなかなか大した人物だ。
ひょっとしたら出世するタイプだなこりゃ。
もはや小太りアフロなどと失礼なことはいえない、式部さんと呼ぶしかない。
クレープなんか少しも食べたくないがこの人のクレープだったら食べてもいいかもしれない。
博士「式部さんはこの辺りにお住まいなんですか」
式部「すぐ近所です、鈴乃原医院ってわかりますか、その前のアパートに」
めちゃめちゃわかりやすい場所だった。
博士「……俺たちはまさにその鈴乃原医院からの帰りです」
偶然といえばいいのか何といえばいいのか、微妙に反応に困る。
式部「何だ、そうだったんですか!」
博士「ええ、ちょっと知り合いに用事があって」
式部「あそこの女の先生キレイですよね!何とかしてお知り合いになりたいんですけどね」
しかも知り合いに惚れてもいた。
ただまあ残念ながらその希望は叶うことはあるまい。
先輩は基本かわいい女の子にしか興味のない変態である。
気まぐれに異性に興味が向いたとしても失礼ながら式部さんではストライクゾーンにかすりもしないと思う。
自然と仲良くなれるルートがあるとすればさっき式部さんが言ってた妹さんからの線だろうけど。
でもなあ、この人の血統から考えるに妹さんの容姿も期待できなさそうなのでそっち方面も望み薄かなあ。
……機会があったら俺が仲介してあげようかな。
その時、
「アニキー、アニキー」
と呼ぶ声に式部さんが反応した。
式部「ああ、すまんすまん、こっちだ」
現れたのは日に焼けたスポーツ系の美少女。
蒼依「ほら、印鑑、忘れんなよ」
式部「因幡さん、こいつがさっき言ってた妹です」
マジですか。
蒼依「どもッス、花房蒼依ッス」
博士「はじめまして、因幡修太郎です」
……これなら妹さんをダシにすれば先輩と知りあうのは楽勝ですわ。
この人フラグの神様に愛されてんなあ。
語尾が「ッス」なのは美少女としては変化球かもしれないが美の観点からすれば何の問題もない。
あの人はストライクゾーンに入りさえすればどんな球でも打つ。
弓菜「蒼依ちゃ……」
こっちも知り合いか。
マスクマンの片割れが声をかけようとしたが今の自分がマスク・ド・オナラ1号であることを思い出してやめた。
気づかれる前に自制できて助かった。
このまま用事を早く済ませて帰るのが賢明だった。
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