第93話
まるで眠り、夢の世界へ入るような感覚だった。
レグスの視界からさきほどまでいた部屋が消え、しろくぼやけた世界に、指輪だけが浮かび上がる。
そこには指輪しかない。赤ん坊の頃から自分と共にあった、あの青い花の指輪。
――安心して、ここは私の記憶の世界、その一部。
「どういう事だ」
――瞳が光りを捉えるように、今あなたの精神は私が伝えようとしている記憶の欠片に触れている。この指輪は実物ではなく、私が見せているモノ。私の記憶に宿る幻よ。
「念話の上位版といったところか」
――そうなるわね。
「話をすすめてくれ」
――これは魔術師ハーラーがあなたの祖父の為に作ったものよ。
「俺の祖父?」
指輪だけの白の世界に男が出現する。歳は三十ぐらいに見える。
――ラルファン。ラルファン・ロカ。
レグスがその名を知らぬはずはない。よく知っている。かつての自分に重く重く圧し掛かった名だ。
「ハーラーとは何者だ。その男とラルファン王にどんな繋がりがある」
――ハーラーはネルフェの森に住まう隠者だった。
ネルフェの森、フリア北部に存在する深き森。
――彼はラルファンから受けた大恩に報いる為に、レンゼルの指輪を恩人に与えた。
「それがこの青い花の指輪か」
――そう、指輪本来の役目は私達精霊の霊力を高めると同時にその身を閉じ込め、力を利用する為のもの。
セセリナの説明に、レグスは顔をしかめる。
――そう怖い顔をしないで、別にハーラーは悪い魔術師なんかではないわ。……私が指輪に宿ったのは合意の上よ。ハーラーは私の友人だった。彼の頼みを聞き、私は盟約を結んだ。
「盟約……」
――ロカ家の者を三度救うという盟約よ。
「三度……」
――ええ、それを果たすまで私は指輪と共にロカの傍にいなければならなかった。
「二度あんたに救われた」
――違う。あなたは私に三度救われているわ。
「いったいいつだ。あの時を除いていったいいつ……」
――覚えていないのも当然でしょうね。だってあなたはまだ生まれたばかりの赤ん坊だったもの。
「赤ん坊だと……」
――あなたの命を救う為に、リーシェは一度目の願いを私に頼んだ。
「俺の命……、赤ん坊の頃に病にかかったなど聞いた事もないが」
――病など、そんなかわいいものじゃない。赤ん坊のあなたを苦しめたのはもっと大きな力。
悲しそうな瞳を向けセセリナは告げる。
――リーシェの子レグスよ。あなたは呪われた宿命の上に生きている。
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