第79話

 興奮しているのは何もレグスとその剣だけではない。邪悪なるドラゴンの霊もそれは同じ、戦いを始める合図をだすかのように咆哮する。

 大地を震わすほどの咆哮にも、レグスは怯まない。何の迷いもなくドラゴンの懐に飛び込み、そのまま地についた四足の後足を剣で斬り抉る。

 苦痛に鳴くドラゴン。

 だが霊体に開けられた傷も瞬時に埋められていく。それは霊体特有の再生力なのだろうか。

 違う。

「はっ!! 一体何匹詰め込んでやがる!! そのでかい図体に!!」

 レグスの剣は今、強い魔力と霊力を帯びている。通常の悪霊が持つ貧弱な霊力では到底再生など不可能。

 実際この巨大なドラゴンの霊も傷を再生しているわけではなかった。霊体内にいくつもの魂が混在していて、レグスの攻撃によって斬り喰われた部位を埋めるように新たな魂が移動してきているだけの事であったのだ。

 つまりこのまま傷を付け続ければ、いつかは部位を埋めるだけの魂がなくなり、ドラゴンの巨体は崩壊する。

 それがいつになるか……、ドラゴンの霊の巨大さとそこから感じられる邪悪な力の強さが、内に膨大な数の魂を秘めている事を示唆していた。

 このままでは限がない。一日斬り続けたところでこのドラゴンは倒れないだろう。

 ならば狙いを変えるしかない。

 これほどの巨体を形成するには、烏合の魂を集める核となっている魂がどこかにあるはずだ。それを斬れば、この魂の集合体を維持出来なくなる。

 核となっている魂がどこにあるか。

 この巨大なドラゴンの霊が、第三者による意識的な集合体として作られたものではないのならば、核の魂は、本能的に、あるいは肉体を持っていた頃の経験によって、頭部や心臓部にあると考えられる。

――どちらだ。いや、両方斬ればいいだけだ!!

 ドラゴンの霊体をまるで肉持つ体を登るかのように駆け上がるレグス。彼の体は剣と同じく魔力と霊力の混合力を帯びており、肉無き場に足を掛ける事を可能としていたのだ。

 駆け、飛び、剣を突き刺す。

 レグスの剣が深々とドラゴンの頭部を貫き、そしてそれはとてつもない風圧を伴って爆ぜた。

 霊力の爆風によって地に叩きつけられるレグス。見上げる彼の視線の先には頭を失った標的が苦痛に啼いていた。

 これが肉体を持つ者だったのならば、とうに息絶えたものだろう。

 しかし、このドラゴンは霊。魂の集まり。頭を失ってなお、啼き、もがき、敵意をむき出しにする。

 それは集う魂の数だけあり、無数の敵意がレグスという一人の人間に向けられていた。

――手応えはあった。

 それでもドラゴンの悪霊から感じる力の強さは微塵も落ちた気がしない。

 これほど巨大な霊体を作り上げているのだ。核となる魂が複数あってもおかしくはないだろう。

 頭部は破壊した。ならば次に狙うべきは胸部。

 レグスの次の狙いを決め、動こうとした時、これまで地を這っていた頭のないドラゴンが天に昇った。

 霊体が飛ぶのに翼はいらないはずだった。しかしこれも魂が肉体を持っていた頃の記憶なのだろう。ドラゴンの悪霊が翼を使いながら飛翔していく。

「待て!! どこへいく!!」

 レグスの制止を無視し、天へ昇っていくドラゴン。

 それは小さく、小さくなっていき、やがて点へと変わるほど、高みに昇っていった。

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