第63話『フェスタ・アウラ』
ボウル村はカラロス山中腹、標高九百五十フィートル地点に存在し、魔物が跋扈する危険なこの山において人が住む唯一の集落である。しかもこの村では青目人と東黄人が協力し合って暮らしており、パネピアでも珍しい東黄人差別のない場所となっていた。
村で暮らす青目人の多くは、かつてのアンヘイ王国による悪魔的支配から逃れ、この地に匿われていた者達やその血をひく者で、その大恩を理解している彼らはアンヘイの滅亡後、人種の立場が逆転した今日にあっても、今度は救いの手を差し伸べる側としてここでの生活を営んでいる。
人種を超えた結婚もこの村では珍しい物ではない。青黄混血の者の姿もよく見られ、それに嫌な顔をする者は一人としていない。
ボウル村がこのような特殊な形態を維持出来たのは、魔物が多く潜む危険な地でありながら、これといった産物もなく、時の支配者達の目を惹かなかった点にあるだろう。
そしてもう一つ、何故、魔物という脅威が近くにありながら、村がこの地に存在し続ける事が出来たのか。
答えは村の中心にある。
「すげぇ、なんだこれ」
それを目にした時、ファバから自然と感嘆の声が漏れた。
灰色がかった石造りの白柱、それに囲まれた、人が何十人も乗れるであろう巨大な切り株のような石の台、この空間だけは村の中でも異質であった。
信心深くもないファバであっても、建造物からは神秘性と美しさを感じ取る事が出来る。
「フェスタ・アウラ」
レグスがそれを目にして呟く。
「ほう、さすがはアウロボロスの御仁。若くしてよく勉強なさっておられる。いや、それとも若いのは外見だけかの」
ボルマンは何やら意味ありげにそんな言葉を吐く。
「邪推はよせ魔術師ボルマン。良き師にめぐり合えば、年月に関係なく多くの知識を得られるものだ」
「蛇の仔の親、いったいどれほどの御仁か気になるわい」
このような意味深な二人の話に付いていけない不満があるのか、割るようにしてファバが口を開く。
「なんだよさっきからフェなんたらやら、なんとかボロスやら、二人だけで盛り上がって。俺にもわかるように言ってるくれよ」
「フェスタ・アウラ。フリアに点在する古代人の遺跡だ」
レグスが無知な少年に目の前の遺跡について説明する。
フリアの地がその名を得るよりも昔、この地には古代人と共に古き精霊達が暮らしていたという。
古き精霊はその霊力を以て、この地に大いなる恩恵と時に災いをもたらし、人々は彼らを畏れ敬い、天界に御座すという十二の神々ではなく古き精霊達を信仰したとされている。
フェスタ・アウラは古き精霊達の恵みに感謝する宴を催す際に使用された建造物で、春の始まりと秋の終わりの年に二度、月夜の日に人々は飲み歌い、楽曲を奏でて、白柱に囲まれた中央の石台の上で夜通し踊り続けた。
そんな祭りの賑わいに惹かれ、古き精霊達が人々の前に姿を見せる事もあったとの記録まで残っている。
かつては各地に大小様々なフェスタ・アウラがあったようだが、今ではこの遺跡の姿を確認出来るのは辺境に現存するいくつかのそれと、古い書物の中だけとなってしまっている。
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