第60話
荷を理解する知識を持ち、偽名である点を言及する視点を持つ者、その特徴から導かれる、存在。
「魔術師か……」
説明を受けなくともボルマンの正体をレグスは見破る。
名と魔術は深い関係にある。名は持ち主の『位置』を示す大切な物。魔術師に名を知られるという事は、自身の存在がどこにあるかを、心の在り処を知られるという事。
魔術師達は言う、名は精神の深淵へと導く『地図』であると。
「ある程度知識はあるようだし、面白い道具も持っている。しかし、それでも同じ道を行く者にも見えん。もう一度問おう、お前さんが何者かを」
ボルマンの再びの問いに、レグスは真実を見せる。
懐から取り出される一枚のメダル。
そのメダルには、片目にそれぞれ色違いの宝石を埋めた三匹の蛇が描かれている。
「これは……」
ボルマンの顔色が変わる。
「その反応、さすがは魔術師だな。こんな場所で蛇の名を知っている者に出会えるとは予想外だったが、話が早く済みそうで助かる。……協力してもらえないか、老魔術師殿よ」
冷めていて力強いレグスの言葉。
対して、メダルを見せられてから完全に気おじした感のあるボルマン。何をそんなに恐れているのか周囲の人間には理解できない。
「脅しか?」
「まさか。誤解しないで欲しい。蛇の仔が皆、殺生を好むわけではない。私は無駄な争いは望まない。その協力を貴方にお願いしたいまでの事」
「それは必要あらば、この村にも災厄をもたらすというわけだろう、蛇の仔よ」
「災厄をもたらすのは私ではない。人の愚かさがそれを招くのだ」
「まさしくお前達の事ではないか」
「私だけではない。誰しもが持っている物だ。この村の人間もそれは同じ。だから、貴方に協力を頼んでいる、災厄を呼ばぬ為に」
あからさまに脅すようなレグスの言葉遣い。
これまでその片鱗は見せていたが、なんの罪もない辺境の住民相手にこんな事をするのかと、ファバはレグスの新たな一面を目の当りにした気分だった。
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