第56話

「馬鹿じゃねぇのか、死んじまったら喰うも糞もないだろ」

「だが馬鹿は馬鹿なりに頭を使う。奴らの唸り声が聞こえるだろう、あれで作戦を伝え合ってる、俺達を狩る為のな」

「こっちにはないのかよ、作戦」

「最初に与えた無闇に動くながその作戦だ。安心しろ、所詮食い意地が張っただけの狼だ。たいした事は出来やしない」

「その自信、慢心にならなきゃいいけどな」

 ファバがそう言ったと同時に、駆け回っていた魔狼の動きが止まる。そしてそのうちレグスの正面の繁みで一匹が大きく吠えたかと思うと、そこからもう二匹が加わり飛び出してくる。

「来た!!」

 ファバが声を上げ、三匹の魔狼にパピーを向けるがレグス方は動かない。

 ファバがどうしたのかと彼の方を見た瞬間。

 二人の背後から音を殺し近付いてきていた大量の魔狼が飛び掛ってきた。

――やばい!!

 ファバにとっては完全に不意をとられた形だった。

 しかし。

 それを待ってましたといわんばかりに、レグスは魔狼達をまとめて斬り捨てた。

 最初の一撃で三匹、二撃目で二匹、そして最後は突きで一匹。流れように放たれたレグスの剣、計六匹の魔狼があっと言う間に骸と化す。

 だがそこで戦いは終わりではない。初めに飛び出した三匹の魔狼がいる。

 それでも結果は見えていた。

 二匹を斬り、最後の一匹を短剣を投げ仕留めるレグス。

 終わってみればなんてことはない、無傷の圧勝である。

 周囲から魔狼達の気配が完全に消えた事を確認したレグスはファバに言う。

「慢心ではない。知識と経験からくる『確信』だ」

 と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る