第23話

「……殺せよ」

 ぽつりと少年がもらす。

「何故だ」

「何故? 俺は山猫の一員だ。あんたの標的だろ? それともガキを殺す根性はないってか!? 今さらびびんなよ偽善者、ほら殺せよ!!」

 少年の言う事にしたがったのか、男が剣を抜き少年に近付く。

 抵抗するつもりはないらしく少年は目をつぶりその場から動かない。

 男の剣が少年の首筋を撫でる。

「怖いか少年?」

「黙れ」

「お前は今から死ぬのだ。そして己の悪事を永劫地獄で償う事になる」

「黙れ。そんなもん教会の坊主共の戯れ言だ。地獄なんてありゃしねぇ」

「なるほどそうか、ではお前は夢無しの夜に帰ると言うのか」

「黙れよ」

「何もない世界だ。喜びも苦しみもない、自我すらも失い、全てが永遠の夜の闇に消えていく世界、何もないという恐怖。お前はそこへ行こうと言うのだな。称賛するぞ少年。お前のその勇気を」

「ごちゃごちゃうるせぇ!! さっさとやれって言ってんだろうが!!」

 耐えれなくなったか目を開け、罵倒を飛ばす少年。

 男が剣を収め、彼の胸倉を掴み立たせる。

「叶えてやろう、お前の望みを」

 そしてじっと少年を睨みつけ男は言う。

「だが楽に死ねるなど都合のいい考えは捨てろ」

 少年の胸倉掴む手とは反対の手、片手で少年の細い首を締め上げる。

 少年はとっさの反応でそれに抵抗した。

「どうした。何故抵抗する。お前の望みを叶えてやるというのに」

 息苦しさに必死にもがきはじめる少年。

 限界は近い。

 少年の目から涙が溢れる、そして……。

「た、たす……」

 もうこれ以上は無理だというその瞬間に、男が手の力を緩めた。

「がっはっ!!」

 その場に倒れこみ空気を貪る少年。そんな少年の姿を見下ろしながら男は言う。

「虚勢を張るな。お前が本当に死を覚悟していたのは最初に松明を投げ捨てた瞬間のみ。剣を抜かなかった時のお前の安堵した表情、私は見逃さなかったぞ。甘いのだ、お前の覚悟など」

 もう少年には何もなかった。

 抵抗する気など、死ぬ気など、虚勢も、怒りも、憎悪も、何もない。

 まるで裸にされたようだ。

 見透かされていた自分の空っぽさを。

 悔しくはないのだ。悲しくもない。

 ただただ疲れた。少年は疲れていた。

――もういい。どうだっていい。

 少年に何かあるとすれば、そんな感情だけ。

「あんた、ダーナンを探してんだろ」

 死んだ声で少年は言った。

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