第7話 眷属


「と、言うわけでBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンことヴラドが仲間になりました」



そういう報告ののち、寝床に戻ってきた俺はエレアとルナに物凄く心配されて詰め寄られていた。二人を宥めるのに苦労したが、魔力を込めた手で頭を撫でると言う荒業で落ち着いてもらい、今はベッドの上に俺を含めて四人が座って話し合いをしている。余った布でちょっと豪華になったベッドは四人で座っても大丈夫な広さに少しだけ拡張してある。


まず二人にヴラドを紹介して、次に俺のことをブラドに説明してBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンであるヴラドがどうして生まれたのかもついでに説明しておいた。



「改めてよろしく頼むのじゃ」


「こちらこそ同じマスターに仕える身としてよろしくお願いします。ヴラドさん」


「よろしくお願いしますわ。ヴラドさん」


「ヴラドでよいのじゃ」


「そうですか?ではヴラドとお呼びいたしますね」


「あー、そのう、なんだ、挨拶も終わってなんなんだが、やっぱりヴラドって名前を変えようと思う。女性にふさわしい名前の方がいい気がしてな」


「わらわは別にヴラドでも構わないんじゃが」


「これは俺の問題だからな。やっぱり名前は重要だと思うんだ。と言うわけでお前の名前は『ヴリトラ』な」



光に包まれるということもなく名前の更新が完了したようだ。



「ヴリトラか、良い名前じゃの。わらわはこれからヴリトラじゃ!」


「「よろしくお願いします、ヴリトラ」」


「これから頼むな」



BODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンの『ヴリトラ』が仲間に加わった。



「あ、忘れてたんだがヒト化したときに言っていた、異論について改めて聞かせてくれるか?」


「ああ、その事じゃな。よかろう、と言ってもマスターである主に仕えるのには特に異論はないのじゃ。元々一人で退屈しておったしお主には勝てんとわかったしの」


「なら異論は特にないのか?」


「ないのじゃ」


「あると思ってたのにないのかよ!まぁいい、ならこの話はここまででいいな。

次の話に移ろう、この島での知識はヴリトラが一番詳しいわけだが、何かあるか?」



一応は島を探索したとはいえ、まだまだ分からないことは多い。なので知っているであろう人?に聞くのが一番だ。



「言っておくことと言っても特にはないんじゃが。そうじゃのう、わらわがこの島の主みたいなものじゃが、特別管理しているわけでもなし。島の名前も知らんからのう」


「質問良いか?」


「なんじゃ?」


「さっきこの島に帰ってきたわけだが、ヴリトラはどこに行ってたんだ?」


「あー……えーっと、聞いても怒らないか?」


「そうだな、並大抵のことでは怒らないな」


「ならそれを信じて話すとするかのう。実は……」



そのあとに言われた事は俺にとって驚きだった。



―――要約するとこうだ。


ヴリトラは人の国をまたいくつか滅ぼしてきたらしい。

どうやらむしゃくしゃしてムシャムシャしてやったとそういう事みたいだ。

むしゃくしゃして滅ぼすとか相当だな…



「まさかまた滅ぼしたりしていたとは…」


「つい最近まではずっとこの島で眠っておったのじゃ!じゃが、何かの異変を感じて起きてしまってのう。ものすごくイライラしておったのじゃ。だからムシャムシャしてやった」


「ムシャムシャしてそれであの骨の山か…。はぁ。

しかし異変ねぇ、最近何かあったっけ?」


「特にはないのでは?」


「ないですわね」


「いやいやいや、大事なことがあるじゃろ!?」



?はて、何があっただろうか。



「お主は神様なのじゃろ?神がこの地に居る事が異変なのでは?」


「はっ!確かにな!」



そうだった、俺が地に落ちたことが異変と呼べるのか。完璧に盲点だった。



「俺が地に落ちたことを異変とするとして、それでなんでヴリトラが起きるんだ?」


「確かになんでじゃろう?」



それについて例えばなのですがと前置きをしてエレアが推論を話す。



「マスターに進化を促されたヴリトラが、マスターを主と認めていて落とされたことにいら立ちを感じていた…と言うのは如何でしょう」


「まてまて、それなら俺が食われたことに納得いかないのだが!?」


「それはあれですよ、直接顔を会わすこともなかったと思います。ですのでマスターだとわからなかったのではと推測します」


「確かにそれっぽいがどうなんだヴリトラ?」


「さぁ?」


「さぁ?ってお前な……まあいいや、どっちにしたってこれからは一緒なわけだし」


「うむ。よろしく頼むのじゃ!」


「ただ、人の国を滅ぼすのはもう駄目だからな。俺はこの島でのんびり暮らしたい」


「仕方ないのう。国を滅ぼすのは我慢する」


「わかってくれたのならそれで良い」



別に人を滅ぼしてしまっても構わないんだが、神として成長を見守ってきた訳だし?多少の愛着はある…のか?まぁいい。

例え俺を引き摺り降ろしたとしても、憎しみに任せて滅ぼすのは違うと思う。

そういう感情は俺にはもうない。今はただゆっくり過ごしてたいだけなのだ。―――――俺が死ぬその時まで。

俺を完全に殺せる奴が人間から出てくるかも知れないしな。



「とまあ、大体の事は聞き終わったか?じゃあ今日はもう寝よう。流石に疲れた。

エレアとルナにはまた枕と布団頼む。魔力を流しながら寝るから適度に吸収しろよ」


「「有難う御座います」」


「わらわも魔力があれば生きていけるのでお願いしたいのじゃが」


「流石ドラゴン。魔力で済むとは本当に有り難い。なら人を食わなくても良かったんじゃ…」


「それはそれ、これはこれじゃ」



ドラゴン形態なら食事が馬鹿にならないし魔力で済むのならまあ良いか。



「今日は疲れたし寝るか、ヴリトラはどこで寝る?」


「マスターの隣でもよいか?」


「別に構わんよ」


「なら失礼するのじゃ。二人はわらわがマスターの隣でも良いのか?」


「マスターには休んでほしいですし、人の温もりも必要だと思いますので構いません」


「私も多少横に伸びるくらいなら問題ないですわ」


「すまないな二人とも、早めに寝具作るから今は我慢してくれ」



少しばかり広く作っておいたベッドに俺とヴリトラが並んで寝転がり、

頭にはエレア、体の上にルナと言うこの世に二つとない贅沢なスライム枕と布団を二人で使う。

魔力を少しづつ流すことを忘れないようにして眠る。



「三人ともお休み」


「「「お休みなさい」」」



二日目が終わる。今日は久々に大仕事をした気がするから疲れた。

明日はどうしようかと考えている間に俺は深い眠りに落ちていた。



――――マスターが寝息を立て始めた頃――――



「マスターはもう寝たかの?」


「寝たようですね、ついでにルナも」



ルナと意思疎通が出来ないことからルナも寝ているようだ。



「そうか、ならエレアに聞きたい事があるのじゃが良いか?」


「はい。なんでもお聞きください」


「マスターの事なのじゃが、何故落とされたのじゃろうなと思うてのぅ…」


「それはマスターにも聞いてもらった方がいいお話しかと思うのですが…」


「それでもいいのじゃが、少しでも休んで欲しかったからと言うのもあるし先に情報を整理しておくと言うのもある」


「そうですね、マスターにはなるべく休んで欲しいです」


「そういう事じゃ」



マスター思いのとても良い子たちの様で一安心です。

あのヴリトラも眷属になれば大人しいようだ。



「思うに、マスターが落とされた原因はわらわにもあると思うのじゃ。

わらわが人の国を滅ぼして混乱させたから、人の怒りが神であるマスターに向かったとそう思うのじゃが…どうだろうか?」


「断定は出来ませんが、人が原因とするならあり得ますね。神であったマスターが遣わして滅ぼした…とそう考えるかもしれません。

早々に人の住む街に行って情報を集めた方が良いかも知れませんね」


「そうじゃな、それも含めて起きたらマスターに相談するかの。あともう一つだけいいかの?」


「なんでしょうか?」


「その、あれじゃ、ずっとわらわは一人でおったから、どうやってマスターに尽くせば良いのかがわからんのじゃ。だからどうしたらいいかと思うてのぅ」



マスターの家族となった皆は一様にマスターに好意を持つようで、BOD《ブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴン》であったヴリトラも、例にもれずマスターラブの様だ。



「そうですね、マスターは働き者でしたので、なるべく仕事を代わってあげたりすると良いのではないでしょうか」


「そうじゃな、わらわが出来ることを頑張るとするかの!」


「それが良いですね。私たちは戦闘面ではあまり頼りにはならないのでヴリトラに頼らせてもらいます」


「任せるとよいのじゃ!長々と話に付き合わせてしまってすまんの」


「いえ、同じマスターの眷属としてもう家族みたいなものなんですから気にしないでください」


「ありがとうエレア」



スライムとドラゴンと神様が一緒に居ると言う異質な空間が出来てしまっているが、人になれるので気にしてはいけない。



「それじゃ、そろそろ寝ましょう」


「そうじゃな、あとは起きたらマスターとまた話をしようかの」


「ですね。ではお休みなさい」


「お休み」



夜中の密談を終わって二人は眠りについた。

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