第51話 フラグ・オン

 外では今、戦闘が起きていると言うのに虹浦セイルはポケットに忍ばせていた携帯端末でゲームを始めていた。

 緊張感が無いわけではないのだが、この宇宙戦艦に乗って月へ向かうなんて非日常的な状況に現実味を全く感じず、自分が何をしたらいいのかわからなかった。


「そう言えばさ、フラウはどうしてセイルに会いに来たの?」


 隣の椅子に座る少女、ユングフラウに問う。その横顔、所々に切り傷や火傷らしき物があり、とても同世代の女の子とは思えなかった。

 自分とは違う世界を生きるユングフラウが何故、自分のボディーガード役なんてしてくれるのかセイルは不思議でしょうがなかった。


「まあセイルがフラウに野外イベントの時は大人しくしてて欲しいって言ったけど……あっ、迷惑だから着いてくるなって意味じゃないんだよ? いつもフラウには助けられてるし感謝してるの、本当だよ?」

「…………虹浦セイル、君は自分が何処から来て、何者なのか知りたいと思わないか?」

 真っ直ぐと目を見てユングフラウは言う。


「自分は中東、周りは砂漠ばかりの町で育った。親はわからない、捨て子の自分を拾ってくれたレジスタンスのリーダーに戦い方を学び、厳しい環境の中で生き延びてきた。セイルには想像も付かないだろう? それが自分の日常だった」

「フラウは本当のパパやママを探してるの?」

「まさか……だが近からず遠からず。その鍵を握っているのはセイル、君なんだよ」

 両手でギュッと包み込むように握る。グローブ越しだが熱が伝わってくるようだった。


「セイルが手がかり? でもセイルも親いないよ?」

「落ち着いて聞いてくれ」

「うん、落ち着いてるよ? ユングフラウこそ、落ち着いて」

「あぁ、じゃあ言うが……うん……自分とセイルは……」

 一呼吸置いて告白する。


「姉妹なのかもしれない」

 真剣な眼差しで見つめるユングフラウに対し、セイルはキョトンとした顔をする。いきなりの事によく理解できない。


「んー、それ…………本当に?」

「その可能性が高い。手がかりを求めてずっと探していたんだ。初めて会った時、自分と似た顔が目の前に現れて驚いた。確証を得るためも一度遺伝子検査を」

「フラウ!」

 セイルは叫ぶとユングフラウに抱きついた。その声に整備士達が一斉に振り向く。


「おっおい、いきなり何を?」

「だってセイルに妹がいたなんて……知らなかったから」

 嬉しさの余りユングフラウの肩をセイルは揺さぶる。


「待て、何故勝手に姉と決めつけている。セイルが妹かも知れないだろ?」

「そうだね……ぐすっ、かも知れないね」

 そう言って今度は泣き出してしまうセイルだった。


「だから、この戦いが終わったら……」

「終わったら?」

 ユングフラウが何かを言いかけると、艦が急に震動して二人は床に倒れ込んだ。


「大丈夫かセイル!」

「うん、平気」

 セイルは少しだけ膝を打ってしまったが痩せ我慢をした。そこへ《ゴーアルター》の新装備を見に行っていた歩駆が現れる。


「ユングフラウ、お前の機体もう出れるってさ。俺はまだ出してもらえない……急いで行って俺の分まで蹴散らしてこい!」

「わかった、直ぐに行く」

 床に座っているセイルを立ち上がらせ、今度は自分から抱き締めるユングフラウ。


「セイル、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃいフラウ」

 再び帰る事を心の中で誓い、自分の愛機の待つハンガーへ駆け出していった。



「おう来たか坊主!」

 待っていたのは整備士長と歩駆。そして傍らには新たな装備を携えた愛機が佇んでいる。その背中には地味な配色で武骨な形の《パンツァーチャリオッツ》には似つかわしくないスカイブルーな色の鉄の翼が生えていた。


「どうだ、カッコよくなっただろ? ハレルヤの予備パーツを流用したんだよ」

「随分と様変わりしたな」

「戦車への変形はオミットしてある。それと砲身は取り替えて強力なビームを出せるようにした。セミ・ダイナムドライブを搭載しているみたいだが最大で射つとぶっ壊れるかもしれないから出力調整に気を付けろよ」

「セミ・ダイナムドライブってゴーアルターのダイナムドライブとどう違うんです?」

 機体を見上げながら歩駆が整備士長に質問する。


「言わば模造品、レプリカだ。生成されるフォトンエネルギーを攻撃や動力として使うゴーアルターと違ってセミは基本的に動力だけ。攻撃にも転化する事が出来るらしいが詳しいやりかたはわからん」

「博士に無理矢理に付けられたんだ。自分はいらないと言ったんだが……」

「にしても地上系リアルロボットが背負い物、羽根付きは邪道だよねぇ。さしづめ、フリーダムスコープキャットって感じだな」

 ブツブツとオタク的な事を呟く歩駆だったが、ユングフラウには意味がわからなかったので聞き流した。


「整備士長殿、ここまでしていただき有り難うございます」

「愛着あるみたいだからな。触っていてわかるぞ、十年近くも前の旧式をよくここまで持たせたな」

「養父の誕生日プレゼントだ。当時は最新のSVだったんだぞ」

「すげえなテロリ……レジスタンス!」

 一言多い歩駆を殴り飛ばしながら、ユングフラウは《チャリオッツ》に乗り込んだ。慣らし運転は無しだがシミュレータで何百回もやった宇宙戦の感覚を思いだして発進する。




「遅い、次!」

 瑠璃は《戦人カスタム》の腕から伸びる〈ビーム付きパイルランス“ペネトレイター”〉を敵機SVである《アポロン》の胸部から引き抜いて言った。ビームの熱で溶けた穴がポッカリと空き、風通しのよくなった《アポロン》が腕をだらりとさせて宙をさ迷う。


「手応えがない……本当に模造獣?」

 コクピットを貫いただけで《アポロン》は意図も簡単に沈黙する。いつもならばコアへの一撃があっても多少は動きを見せると言うのに、そんな雰囲気は微塵もなかった。


「だからって油断は禁物なッ……と!」

 ハイジは瑠璃機の背後を狙う《アポロン》の背後に二発の銃弾を浴びせる。後方数百メートル、赤い《戦人・改》が二丁のライフルを構えていた。これで全ての敵機を撃墜したと思いきや、まだ終わりではなかった。二隻の巡洋艦、片方の《アキサメ》が後方に下がり、もう片方が前に出るとデッキの入り口が開く。


「あっちの艦からまだ出てくるぞ」

 登場したのは先程と同じ《アポロン》が発進していくのだが、まるで同じシーンの映像を繰り返し見せられているかの様に機体が吐き出され《アキサメ》の周りを取り囲んでいく。


「ちょ、ちょっと数が多いわ……物理的に艦の搭載量を越えてる!」

「て事は、やっぱり模造獣なんだろー?!」

 瑠璃達が休む間もなく《アポロン》軍団が襲いかかってきた。腕の隕石掘削用ドリルを構えてイノシシの様に正面から突撃してくる敵機の群れに対して《戦人カスタム》が立ちはだかる。


「纏まってるから、それだけ当たりやすい!」

 コンソールのレーダーに映る敵影を手当たり次第ロックオンする。背部コンテナから沢山のマイクロミサイルは放たれる。しかし、これだけでは全ての敵を撃破する事は出来ない。瑠璃は更にダメ押しで新装備を試す事にした。


「拡散するスキャッターレーザー、これも味わいなさい!」

 両肩に付けられた筒状の物から光線が発射される。それは途中で枝分かれする様に分裂して《アポロン》の身体や四肢を次々と貫通していった。だが、


「撃ち漏らし?! でも、当たったはず……」

「チィッ、ゾンビは寝てろっつーのッ!!」

 驚く瑠璃の《戦人カスタム》を上を通り抜け、ボロボロになっても突き進む《アポロン》をハイジは見逃さない。両手のライフルと脚部から発射したミサイルで、残りのモノ達に止めを刺した。


「何なんだよ、急に動きが変わったような気がする……いや、本来こっちか模造獣は」

 それでは先程までとは手応えが違ったのは何故なのだろうか、二人は考えを巡らせる。しかし、そんな時間を与える暇もなく《アポロン》が次々と前衛の《アキサメ》から止めどなく発進してくる。


「艦を攻撃しようにも、これだけ出てくると邪魔でいけないわね。前に出た不思議な力……アレを使えれば」

「セミ・ダイナムドライブだろ。あの後、機体直してから何度も試したが駄目だった。コイツはexSV(ゴーアルター)とは根本が違うらしい。使うにはもっと心の高ぶりが無いと発動しないってヤマダが言っていた」

「急にそんな感情論や根性論の話をされても無理よ!」

 そんなアバウトな戦法に頼るわけにはいかないのだが、出るものなら出したいのが現状である。瑠璃とハイジは迫り来る敵の猛攻に耐えるのが精一杯。

 そんな窮地に立たされた二人の前にやっと救援が駆け付けてきた。


「月影瑠璃、ハイジ・アーデルハイド。自分が突破口を開く、その隙に敵艦を」

 高速で接近してきたのはユングフラウの《パンツァーチャリオッツS(スペース)》だ。箱形の地味なシルエットに不釣り合いな派手な翼から光の粒子を撒き散らし敵の注意を引き付けている。


「……チャージ開始。付いて来い、バケモノ共」

 瑠璃とハイジの《戦人》に取り巻いていた《アポロン》は《チャリオッツS》の出す粒子に光に向かって飛ぶ虫の如くフラフラと誘われ行った。


「何となくだが見えてきた……この力、引き出しきって見せる!」

 これまで味わった事のない感覚をユングフラウは体感する。

 背後から追いかけてくる《アポロン》のボディから光の点の様な物が見えていた。

 これはスクリーンやレーダーに表示されているのではなくユングフラウが直接的に感じている事なのだ。直感的にアレが模造獣の弱点であるコアだと悟る。


「エネルギー充填完了……発射!」

 ギリギリまで引き付けて敵が直線上に重なった瞬間、頭部砲身から放たれる七色に輝く光の線が《アポロン》を見事に串刺しにした。それどころか先にある《アキサメ》の側面にまで届いて貫通していく。

 そして、先頭の《アポロン》から順に連鎖する様に爆発していき、最後の《アキサメ》が轟沈。宇宙に真っ赤な大輪の花を咲かせる。


「スゲーなガキンチョ……艦もろとも一網打尽か」

「ラストあと一隻、叩くなら今よ!」

 最後に残っている後方で待機していた《アキサメ》に目をやる。

 またSVを大量に出してくるのだろうか、と身構えた三人だったがそんな様子はなかった。


「待て! 何だありゃ?」

 ハイジの《戦人・改》が指を差す。なんと《アキサメ》のブリッジ頭頂部から大きな布の様な物が飛び出してきた。


「あれって白旗……よね?」

 宇宙に揺らぐ純白のフラッグ。

 一体、これは何を意味するのだろうか。

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