第14話 ヒーロー

 日曜の朝、ベッドに横になったままテレビをつけたら、それが映った。

 前に見た時と同じで、そいつはお調子者で騒がしいやつだった。


『日曜日の朝やってるの!』


 子供向けのなんとかレンジャーの誰かに俺は似てるという彼女の言葉にその週の日曜、久しぶりに戦隊ものを見た。


『男4人出てたじゃん!俺何色だよ!』

『赤だよ、赤』

『赤ー?一番バカっぽいやつじゃん!』

『似てるでしょ?』


 そう言うと、肩より長い髪をサラサラ揺らし彼女はコロコロと笑った。


 買い出しに行ったと聞いて咄嗟に追いかけたけれど、見つからない彼女。

 忘れていた携帯を取り出した。

 少し前なら、気軽にメッセージを送れたのに……その日は少し戸惑った。


 LINE を開く。


『水沼未央』


 トーク履歴はそんな下じゃない。

 親指で弾くと、最後に送ったスタンプがクルクル回った。


『話がある』

 打つだけ打って暫く眺めていると、少ししてフッと暗くなる画面。

 結局、送信ボタンを押せない俺の情けない顔が映った。

 俺、こんなだったっけ。

 こういう自分は初めてで何がなんだか……。


『……水沼』

 教室に戻ると、そこには当たり前のように彼女がいて、俺はかなり拍子抜けした。

『右京くん!ちょうどいいところに来た!』

 1歩、彼女の方へ足を進めたが、外の屋台に看板を取り付けたイメージを知りたいという女子に囲まれ、すぐに廊下に連れ出されたから、彼女との距離はまた離れてしまった。

『右京くん、この看板持って、両手あげてみて?』

 言われるがままに両手をあげると『いいね!』と目の前の女子たちが口々に騒いだ。

『ありがとう!下ろしていいよ!』

 そう言われ、新聞紙が敷かれたスペースにそれを下ろした時、俺は初めてその看板をちゃんと見た。

《ヒーロー焼きそば》

 真っ赤に塗られた看板に書かれたその字。

『ヒーロー……?』

 思わずそう声を出した俺に、隣に立っていた子が気付いて答えをくれた。


 俺の顔は看板の色より赤くなったかもしれない。

 みんなが教室に戻ったあとも、看板の前に立ち尽くした。


『右京くんにとっては、初めてのうちの学祭でしょ?だから一番楽しんで欲しいって』

『……だから焼きそばなのは知ってる。俺が得意だって言ったからだろ?……けど、なんでヒーロー?』

『右京くんはすごく優しいからって』

『俺が?』

『うん、そう!日曜の朝やってる、ほら、戦隊もののレッドに似てるって。だからヒーロー。ヒーローが作る焼きそばってことらしいよ』

『……それ、誰が……?』

『え?未央だよ?聞いてなかった?』


 バカっぽいからって言ってたじゃねぇか。


 番組の終盤、敵を助けたことでみんなをピンチにさらしたと落ち込むレッドに、ピンク役の女の子が言ったセリフ。

『でも私たちは、そういう優しいところ大好きですよ』


 自分が言われた訳じゃないのに、無性に照れる。寝転んでいられなくなった俺は、思わず起き上がった。

 この気持ちは――なんだ。


「右京、お前何してんの?」


 部屋に入ってきた左京に声をかけられたけれど、なぜかすぐに反応できない。


「右京、お前なんで正座してこれ見てんの?」


 ベッドの上に正座して、戦隊ものを見る俺を左京が小バカにして笑ったけれど、なぜか反論出来なかった。

 そんな余裕が全くなかった。

 頭の中で繰り返されるさっきのセリフが、どんどん脚色されていく。


『私は大好きなんだよ』


 それは、水沼の声で何度も何度も再生された。

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