堀川 国子(書道クラス/吹奏楽部)

堀川 国子[2時間目]

 廊下のロッカーを開けて現代文の教科書を入れ、生物の資料集を取り出した。次は生物室で授業だから、もうほとんどみんな行ってしまったらしい。私が購買で消しゴムを買って戻ってくると、https://kakuyomu.jp/works/1177354054880201962/episodes/1177354054880202039)が教室で待っていてくれたみたいで、慌てて生物の準備をしたところだ。それなのに、今度はそのまことが廊下へ出てこない。何か話し声がするみたいだ。もうすぐ授業が始まってしまうじゃないか。私がちょっと強めにロッカーの扉を閉めると、まことはのっそりと外へ出てきた。

「まこと、何か話してたの?」

「えっ、なんにも」

「そ。じゃ、行こう」

 まことはいつものんびりしているから世話が焼けるなと思う。中高一貫校だからもう5年近い付き合いになっているので、同学年でも妹のように思えてくるのだ。

「まことは進路決めたの?」

 来月に進路相談があるのを思い出したから、唐突に尋ねてみた。

「や、なんにも」

 やっぱり。

「4月から3年生でしょ? そろそろ決めなきゃ。まことはボーッとしてるから心配」

 来年の今頃はもうセンター試験の直前なのだ。このコは本当に大丈夫なんだろうか。

 なんとかチャイムまでに生物室へ着いて、私はいつもの左後ろのテーブルへ向かった。向かいの大和さんも隣の山浦さんもスマホをいじっている。この人たちも大丈夫なんだろうか。

 授業はメダカを顕微鏡で観察するという簡単なもので、島田先生がしっかりしていないから、話し声があちこちから聞こえてきた。私は黙々と顕微鏡にメダカを乗せて、配られたプリントにスケッチを書き込み続けた。それでも大和さんは、まだ授業中はちゃんと観察に参加してくれたけれど、山浦さんに至っては顕微鏡をしばらく覗いただけで、あとはスマホをいじっていた。やる気のない人が混じっているとどうしたって不愉快になる。うちの学校は歴史と伝統と立地は立派だけれど、郊外の進学校に押されて毎年定員割れしているらしい。だからこんなやる気のない人まで交じるのかしら、とみっともなく感じるのだ。

 授業が終わってさっさと席を立って廊下を歩いていると、橋本さんが声をかけてきた。彼女はバドミントン部だけれど勉強も良くできるから、気の許せる相手だった。

「堀川さんさ、年末の件、詳しいこと知ってる?」

 冬休み中、ずっと考えないようにしていた事だった。

「私はよく知らない。何か知ってるの?」

「さっき細田さんから聞いただけなんだけどね、田口さんが原因なんじゃないかって」

「そう細田さんが言ってたの?」

「ううん、そう和泉さんに言われたんだって」

「原因って?」

「細田さんは黒幕だって言ってたけど…どういう事かよく分からないの」

「噂話なの?」

「ぜんぜん分からないんだけど、年末から私も怖くってさ…」

「本人に確かめたの?」

「いや、それはさすがに…」

「わかった、あとで聞いてみる」

 物事ははっきりさせなくちゃいけない。みんな無かったことのように目を伏せているけれど、クラスの事だもの、委員長の私が踏み込まなければいけないのかもしれない。

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