もしも、何百年も前の僧侶が「未来の学者を困らせてやろう」という、ただそれだけの理由で偽の仏典を作っていたら?
本作は、そんな馬鹿馬鹿しくも愉快な発想から始まる歴史コメディです。
南北朝時代、暇を持て余した僧侶・円秀は、後世の人々を困惑させるため、存在しない仏典をでっち上げます。
七本腕の菩薩、意味深に見えて実はくだらない説話、さらには架空の弟子による注釈書や批判書まで。
その凝りようは、もはや悪戯というより一大事業。
そして六百数十年後。古寺から発見された謎の仏典を前に、現代の研究者たちは大真面目に議論を始めます。
「失われた仏教思想なのでは?」
「未知の宗派が存在したのでは?」
「いや、単なる悪戯だったのでは?」
読者だけは知っています。
そう、本当にただの悪戯なのです。
何より面白いのは、研究者たちが決して愚かではないこと。残された史料を真摯に読み解こうとするからこそ、円秀の仕掛けた罠にはまってしまうのです。
作者の意図と後世の解釈がすれ違い、くだらない暇潰しが立派な学術研究へと発展していく。その皮肉が実に痛快。
果たして、円秀の悪戯はいつまで続くのか。
博覧強記な作者の仏教への教養などが滲み出ている傑作コメディ。
歴史好きにも、ミステリ好きにも、そして知的な笑いを求める人にもおすすめしたい、時代を超えた異色の一編です。