二十年暮らした家を出る日、古いカタログの束をくくる。角の折れたそのカタログから、ひとりの女性の時間がほどけていきます。
なぜ家を出るのか、作中ではっきりとは語られません。別れなのか、見送りなのか、ただの住み替えなのか。読む人の世代や暮らしによって、いくらでも違う事情が見えてくるはずです。
書き手はどうしても、自分の思う答えを読み手に渡したくなるものです。この作品はそれをしていません。解釈の幅をそっくり読者に預けて、そのうえで「また未来を思い描きはじめる」という芯だけは、どう読んでもぶれないように置いてある。手放す勇気と、手放しても崩れない確かさ。その両方があるから、読み終えたあとの余韻がこんなに深いのだと思います。
短い話です。けれど、自分の部屋の押し入れにもこんなカタログが眠っていないか、ふと探したくなりました。