カフェ・ルーチェへようこそ! ~最強の幼なじみ二人ですが、これからはカフェでのんびり暮らします~
天白あおい
第1話 カフェ・ルーチェ
焼きたてのお菓子の香りが、店の中に広がっていた。
窓から差し込む光のなかで、エルナが天板からマフィンを取り出している。表面はきれいなきつね色で、蜂蜜の甘い香りが厨房まで漂ってきた。
「エルナ、焼けた?」
「うん。ちょうど今ね」
エルナがマフィンを丁寧に並べるのを、私—リタは隣から覗き込んだ。
毎度のことながら、ふわふわしっとりで、おいしそう。
「おいしそう! ひとつ食べてもいい?」
「いいよ。味を見てほしかったから」
差し出された、半分このマフィンを受け取り、さっそくひと口かじる。
外側はふわっとしていて、中はしっとり。蜂蜜の甘さもほどよくて、噛むたびにバターの香り口の中に広がった。
「おいしい! 昨日の試作より、しっとりしてる」
「やっぱり? 生地の混ぜ方を少し変えてみたんだ」
エルナも一口齧って頷いた。
「うん、おいしい。やっと成功だね」
エルナは嬉しそうに、残りのマフィンをお皿に並べた。
エルナは、ちょっとの違いでも気になれば、納得できるまで、とことん試す。
私には同じように思えるお菓子でも、エルナにとっては違いがあるらしくて、頼りにしている。
今回は納得のいく味だったみたい。
もちろん、私だって食べるだけじゃないよ?
おいしいお菓子ができるなら、材料を探すのも、重たい荷物を運ぶのも喜んで手伝う。
試作品も喜んで食べるけどね。
私はマフィンを食べ終え、店の入口へ向かった。そろそろ看板を出す時間。
「じゃあ、オープンの準備をしてくるね」
「お願い。こっちは紅茶を用意しておく」
扉を開けると、昼前の通りには市場へ向かう人たちの姿があった。
今日もいい天気。
看板を外に出しながら、私は店の名前を見上げた。
――カフェ・ルーチェ。
私とエルナの、小さなお店。手書きで、何回も書き直したことが懐かしい。
看板を出し終えて店に戻ると、エルナはカップを並べていた。
棚には茶葉の入った小瓶が並び、カウンターの上には今日のお菓子が少しずつ増えていく。マフィンのほかに、昨日焼いておいたクッキーとパウンドケーキも用意してある。
「紅茶の準備、できた?」
「うん。いつもの茶葉と、少し香りの違うものも用意してあるよ」
「マフィンに合うのはどれだろ?」
「それもあとで試してみたいね」
エルナはそう言って、茶葉の瓶をひとつ手に取った。
私たちの店では、こうしてお菓子とお茶をセットで考えることがよくある。お菓子に合わせてお茶を選んだり、反対に、お茶に合うお菓子を考えたり。
例えば、フィナンシェとアッサムはいい組み合わせだ。フィナンシェみたいな、バターたっぷりの焼き菓子には、アッサムのようなコクのある紅茶が合うんだよね。ミルクを加えるのもいい。飲みやすくなるから。
そんな感じで試してみて、気に入ったものができれば、そのままメニューに加えることもある。
没になるのも多いけどね。
でも、エルナと試行錯誤しながらお菓子を考える時間が、私は好きだった。
「だいたい準備できたかな。リタ、開けても大丈夫だよ」
茶葉の小瓶を並べながら、エルナは合図した。
「了解!」
よし、今日もお客さんに喜んでもらえるように頑張るぞ!
板をひっくり返して、OPEN が見えるようにする。
カフェ・ルーチェ、本日も営業開始です!
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