6話:冒険者ギルドはないらしい
椅子へ座ると、男が挨拶を始める。
「俺はフーゴ。こっちがライナーだ。よろしくな」
「エレナです。よろしくお願いします」
二人とも二十代くらいだろうか。宿で顔を合わせてきた客から、今度は依頼に誘われるわけだ。
「村の北の林にゴブリンが出てる。最初は薪を拾う奴が見ただけだったんだが、畑にも来るようになってな。村長がここへ依頼を持ってきた」
「数は分かるんですか?」
「見た奴は五、六匹と言ってる。ほかにもいるかもしれんから、何日か林を回って確かめる」
ゴブリンなら馴染みのある相手だ。ただ、今度は畑へ来る連中を迎え撃つんじゃなく、こっちから探しに行くのか。
「畑に来たのは倒したことがあります。泊まりがけの討伐は初めてですけど。スキルもあります。《農業》ですが」
「農業って……畑仕事の?」
「はい。でも、鉈で畑に来る魔物を倒すのにも使えてます。グラスディアも鉈で倒しましたよ」
「エレナの腕は確かだ。狩りは見てないが、一人で肉を調達して運んでくるのは確かだからな」
ローデリヒさんからの援護射撃に、フーゴさんは頷いた。
「腕を疑ってはいないさ。野営は俺たちが教えるし、戦いも必要なら助言する。それでどうだ?」
知らない林なら、慣れた二人についていけるほうがありがたい。俺は冒険者としては初心者なんだからな。
「はい。お願いします」
報酬や食料代を詰め、立ち会うローデリヒさんが宿の台帳へ条件を書き込む。
「よし。こんなところか。エレナも、それでいいか?」
示された報酬は納得できる。荷運びなどの手伝いだけならお駄賃程度だが、討伐でも二人と同じように働ければ、食料代を引いて三等分だ。
仲介がローデリヒさんだから、信用って意味でもフーゴさんたちが俺をはめるなんてこともしないだろう。
「かまいません。でも、依頼ってこういう形で取り仕切ってるんですね」
「冒険者の宿が必要な理由だな。信用が関わるから下手なことはできんさ」
信用が必要なら、冒険者ギルドみたいなものがあってもいいんじゃないか? 父さんも宿を訪ねろとしか言っていなかったし、この世界にはないのか?
「商人とか職工みたいな組合はないんですか? 依頼をまとめて受けるような」
「ああん? ギルドか? 冒険者にはそんなものねえよ。うちみたいな宿で話をつけるのが普通だ」
「報酬で揉めたりしません?」
「するぞ。だから俺が条件を聞いて、払える相手かも確かめる。こいつらは前にも同じ村の仕事をしてるから、村長も頼みに来たんだ」
「働かずに金だけ貰おうとしても、噂になって次が来なくなるしな」
フーゴさんがにやりと笑う。宿と噂で回るなら、ギルドがなくても別にいいっちゃいいのかな?
「おし! なら明日の朝に出立だ。毛布と水袋はあるか? 天幕は俺たちが用意するから気にするな」
「はい。準備して待ってます」
その日のうちに支度を済ませて明日を待つ。
さて、どんな依頼となるかな?
◇
翌朝、ミナに何日か留守にすると伝えて宿を出る。
フーゴさんとライナーさんに加わる形の臨時パーティーみたいなもんだ。
荷物を持とうかと聞いたが、まずは自分の荷物で歩いてみろと言われる。
「鹿を斬ったのも、その鉈か?」
「はい。手に馴染むので」
腰に下げた鉈を鞘から少しだけ抜いてフーゴさんに見せる。手入れは万全! 切れ味抜群だ。
「枝を払うにはよさそうだが、《農業》スキルが戦いに使えると思わなかったぜ」
「私もそう思ってましたが、畑仕事は害獣や魔物の駆除も仕事ですからね。案外そういうところまでスキルの範囲なのかもしれません」
「スキルによっては応用が効くって話もあるが、それかもな。スキル持ちは羨ましいぜ」
「俺たちはスキルがないからな。それでも魔物と戦ってりゃ力はつくし、冒険者としてやっていける。《農業》でも持ってるだけでお得ってもんだぜ」
ライナーさんが言うには、二人にスキルはないらしい。それでも戦えば強くなるという。
この世界って実は経験値でもあるのか? なら、ファーミングで成長がブーストされるって理屈も正しいかもしれないな。
村へ着くと、村長にゴブリンが来た畑の場所と見かけた時間を聞く。
林で泊まれるよう、毛布や食料の入った荷物は背負ったまま北の林へ向かうことになる。
地面を見ていたライナーさんが手招きする。指の先には踏まれた草と、小さな足跡があった。
「村の奴はこっちへ入らないそうだ。跡も新しい。追ってみよう」
俺なら通り過ぎていたかもしれない。スキルがないとはいうけど、やはりベテランは違うな。
ついていくと、枝の向こうからしゃがれた声が聞こえた。木の陰から覗けば四匹いる。棍棒に、刃の欠けた剣。うちの畑で見てきた奴らと変わらない。
フーゴさんが俺たちを茂みの陰へ寄せる。
「俺とライナーで奴らの背面に回る。エレナはここで待機して、奴らが逃げて来るなら仕留めてみろ。ただし、無理に逃げる奴まで追わなくてもいい」
「分かりました」
フーゴさんとライナーさんが二手に分かれて左右から回り込むように移動していく。
俺はこの場を任された。鉈を抜いてゴブリンたちの動きをうかがう。
少し待つと、二人の声が林に響く。ゴブリンたちが振り向いて武器を構えた。
棍棒と欠けた剣を振り回すゴブリンに対して、フーゴさんの剣がその腹へ入り、ライナーさんも一匹を仕留めていた。
不利と見たゴブリンたちは俺のいるほうに向かって走り出す。残ったのは二匹だ。
鉈を構えている俺相手に、ゴブリンたちは武器を振りかぶっている。どうやら戦うつもりらしい。
俺なら抜けられるとでも思ったか? ここは実力差ってものを教えてやるか。
先頭の奴が剣を持ち上げるけど、見え見えの動きだ。むしろこちらから近づき、振り下ろされる剣を避けながら鉈を一閃! 首筋から胸に鉈が押し入っていく。
――これで一匹! つぎのゴブリンは?
残った一匹が武器を下げ、俺から逃げようと向きを変える。
逃がすかよ! 無理に追わなくてもいいとは言われているけど、一呼吸の距離にすぎない。足に力を込めて駆け出して、そのまま背後から鉈を振り下ろす。
またもや首筋から鉈が入り、そのまま背骨を断ち切るような一撃となる。腕に馴染みのある手応えが返り、二匹目も木の根元へ転がっていく。
鉈を引き戻して周囲を警戒……まだいるか? 奥を見ても、逃げる足音は聞こえない。振り向くとフーゴさんと目が合った。ライナーさんも俺のもとに歩いてきている。
「こっちは二匹倒しました」
「……ああ。見てたよ」
フーゴさんがこちらの二匹を確かめに来る。その間も、ライナーさんは林の奥を見ていた。
「逃げた奴を止めろとは言ったが、もう二匹とも終わってるとはな」
「畑へ来たのも、こんな感じで倒してましたから」
「なるほど。荷運びだけじゃねえわけだ」
ライナーさんが俺の鉈を見て笑う。どうやら俺の実力を理解してくれたようだ。
フーゴさんに討伐の証の取り方を教わり、耳を集める。村で見たのは五、六匹だから、まだ終わりではない。
「エレナ、次はその足を活かしてみないか?」
「ゴブリンの背後に回る役ですね? やってみます」
「よし。それで行くぞ」
色々と経験させてくれるようで、これはありがたい。どれだけ俺がやれるか、試してみようか。
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農業スキルグリッチは万能かもしれない~TS転生した俺は、曲解した《農業》で最強を目指す~ TS大好きマン @Rcas1204
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