一本のビニール傘。
ありきたりの日用品から始まる恐怖があなたにも届く。
午前三時。降りしきる雨の中を歩く女。
彼女に当たる雨だけが音を立てない。
気づかなければ見過ごすこと。
でもたぶん、普通じゃない。
女の正体も、傘の意味も。
何が起きているのかも。
物語は最後まで怪異らしい違和感の原因を明らかにしない。
だから読む者は、その理由を想像する。
思いを巡らせるうちに多くの人が一度は経験したことのある〝傘の取り違え〟に思いいたるだろう。
この想像は、じわじわと逃げ場のない恐怖へと変わる。
どうだろう。
取り返しのつかない何かが、あなたの日常にも入り込みはしないか?
ふいに、そんな想像が起きはしないか?
読み終えた後、自分の家の玄関にある傘を思い浮かべた瞬間。
物語は、フィクションから読み手側の日常へと変わるかもしれない。
その傘は、あなたが買ったものだろうか?
本当に?
似たものと取り違えてはいないのか?
そうだ。あなたにもわかるはずだ。
読み終えてからが、本当の恐怖の始まりだ。