いくつになっても微笑ましい、そんな二人の暮らしを描いた物語だと思っていました。
妻の機嫌を直すために甘いものを用意したり、髪型の変化に気づけなかったり。『私の取扱説明書』に書き足されていく細かな注文に、思わず頬が緩みます。四十七年という長い歳月のなかで、失敗を重ねながらも互いを理解していく二人。その何気ない日常が、なんとも愛おしいのです。
だからこそ、最後に書き加えられた第二十四条、「私がいなくなったら、私を忘れること」というお願いが胸に引っかかります。いつか訪れる別れを予感させる、不穏でいて、どこか愛おしい一文。いったい、どうして妻はこんなお願いを残したのでしょうか。
そして、真実を知ったとき、それまで読んできた四十七年間の意味が、いっそう深く胸に迫ります。説明書に書かれたことを守るだけでは知り得なかった相手のこと。長い時間をともに過ごすなかで、少しずつ積み重なっていったもの。最後の「ただいま」にたどり着くころには、私の涙腺からあふれた液体が鼻水の洪水となっておりました。
微笑ましい夫婦の物語として読み進めたはずが、最後にはもう、二人の歩んだ歳月そのものが愛おしくてたまりません。ぜひ、最後まで読んでいただきたい一作です。