人生に希望を失った男が、最後に願ったのは「次は少しだけ、人に好かれる顔がほしい」ということ。
ところが死後に出会った女神とのやり取りは、思いがけず賑やかなものに。
「せっかく転生するならファンタジーがいい!」と駄々をこね、念願かなって剣と魔法の世界へ転生します。
生まれ変わったトーマを待っていたのは、パン屋を営む両親と、指先に小さな火を灯す魔法のある暮らし。
けれど、赤ん坊なので言葉すらわからない。
魔法を使おうとしても何も起こらず、前世の知識でパンを改良しようとしても、肝心のイースト菌をどう作るのかわからない。
そんな思い通りにならない二度目の人生が、どこか可笑しく、そして温かく描かれています。
特に心に残ったのは、夜明け前、父親がパンを焼く音と匂いを感じる場面。
かつて何もしたいことがなくなった男が、新しい世界で「生きていくんだ」と思い、いつか父親のパンをフワフワにしたいという小さな目標を持つ。
派手な力ではなく、焼けるパンの匂いから始まったトーマの二度目の人生。
これから彼がこの世界で何を知り、何を見つけていくのか、
ゆっくり見届けたくなる序章です。