承っ……。





「これ……。飲んでも、本当に大丈夫なの?」



 箱を開けると、茶瓶がぷちぷちに包まれていた。

 お父さんがGWの旅行先で飲んでいた、地ビールの茶瓶と同じだ。



『トウメイニンゲン・ニナール』



 ラベルは、手作りの水色のテプラーシール。

 名前だけ書かれていて、成分表はない。


 怪しさが爆発だった。



「んんーーーっ!」



 開け口は、王冠。

 ちゃんと締まっており、台所から持ってきた栓抜きで開ける。


 ポンッ、と音が鳴った。

 炭酸入りらしい。


 指先にちょっとだけ乗せ、ニオイを嗅ぐ。



「……甘いニオイ?」



 舐めてみる。

 やっぱり甘かった。



「リポビタンD?」



 知っている味だった。


 いや、炭酸があるから、オロナミンCのほうか。

 たぶん、大丈夫そうだ。



「だけどなー……。」



 それでも、ためらってしまう。

 入手先も怪しすぎれば、見た目も怪しすぎる。


 なんとなく、箱を逆さまにしてみると、紙が落ちてきた。



「サイトのアドレス?」



 二つ折りの紙を開くと、中央に小さな文字が一列だけあった。




 ******




「はぁ……。どうしよう」



 ベッドに寝転び、天井を眺めていた。

 もう一時間ぐらい。



「トウメイニンゲン・ニナール……。」



 その名を口に出し、改めて思った。


 アホすぎる名前だ。

 分かりやすいからこそ、すぐに見つけたし、衝動買いもした。


 だが、やっぱりアホとしか思えない。

 自分の行動も含めて。



「なんか、こう……。もっと別のが、あるじゃん?」



 上半身を起こす。

 学習机の上に鎮座する茶瓶をしばらく見つめた。


 ふと窓の外へ視線を移す。

 真向かいにある幼なじみの部屋には、誰もいない。



「日曜日なのに、一人でどこに……。」



 私は、十九歳。


 高校のときは、クラスで三番目くらいには可愛かった。

 性格も悪くないと思う。


 幼なじみを通してだが、男友だちもそれなりにいる。

 だけど、彼氏がいたことは一度もない。


 当然、処女だ。

 友だちたちとのHな話題では、見栄を張っている。



「……伊織が悪い」



 ずっと幼なじみのことが好きだった。

 いつからかなんて覚えていないほど、幼いころからだ。


 家は向かい同士。

 幼稚園も、小学校も、中学校も一緒。


 幼なじみは頭がいい。

 私は受験を頑張って、同じ高校、同じ大学に進んだ。


 いい加減、私の気持ちに気づけよ。



「絶対、おかしいよ……。

 友だちは、付き合って一か月でキスしたっていうし、その先だって……。」



 毎年、バレンタインデーのチョコは欠かしていない。

 クリスマスのプレゼント交換もだ。


 今年の春なんて、高校の卒業旅行へ二人だけで行った。



『お互い、車の免許を取ったから、長距離ドライブを楽しんでみない?』



 三泊四日の東北旅行だ。


 温泉旅館の部屋は一緒だった。

 もちろん、ついに大人になるのだと期待した。


 しかし、三夜分の勝負下着は、無駄に終わった。

 おかげで、私はもんもんと悩んでいる。



「小中では『夫婦』って、からかわれて!

 高校は、公認カップル扱い! 何度、あっちの相談を受けたと思っているの!」



 本物の『ちんちん』が見たい。


 正直に言おう。

 ネットのHな動画くらい、たまに見ている。


 でも、ネットのHな動画のはおかしい。

 グロテスクで、凶暴すぎる。


 小学校四年生の頃の幼なじみのは、もっと可愛らしかった。

 その頃まで、一緒にお風呂に入っていたから、私は詳しいのだ。


 ネットのHな動画の女性は、美人揃い。

 たぶん、男性も猛者揃いなのだろう。


 私は普通の『ちんちん』が見たい。



「知らないよ! 私は処女だよ!

 全部、ネットの知識だよ! 伊織のバカ、バカ、バカ!」 



 Hな同人誌では、よく分からない。

 簡単な線で描かれていることが多いし、白塗りされていたりもする。


 女のは、ちゃんと描き込まれているくせに不公平だ。


 高校の保健体育の教科書もあてにならない。

 断面図なんか、どうでもいい。


 この前、お母さんにノートPCを貸したら、検索履歴がバレた。

 超呆れられた。



「そうだよ! 伊織が悪い! 私は悪くない!」



 怒りがふつふつと沸いてきた。

 私は、ベッドから下り、学習机のノートPCの電源を入れた。



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