第3話 「新年の捧げもの」
最年長の巫女達が消えてから半年が過ぎた。あれから海は一度も荒れることなく、平和な日々が続いている。
・・・一つ変わったと言えば、私に対する男の態度が変わったことだろうか。朝のお祈り時間に少し遅れても黙認するようになり、私を見ることや確認することがおろそかになってきた。これは、毎年あることだ。去年の年明け前も、消える子の前ではそういう態度をとっていた。
周りの子に聞いても首をかしげていたが、そういうことなのだと思った。雪を眺めながら、最年長の巫女の墓に花を添える。私ももうすぐそちらに行くようだ。・・・と、言ったらなんといわれるだろうか。
私が知る中でも、最年長の巫女ともう一人の巫女は面倒見のいい人たちだった。・・・怒られるかもしれないな、黙っておこう。
その日の夜。年明け前最後の日だ。私だけ別室で、此処で出るにしてはなぜか豪勢な食事だった。まあその理由も何となくわかるんだが。汁ものを除いて、完食すると男性が首を傾げた。
「おい、なんで汁物を残すんだ?ウマそうだろう?いつも全部残さず食べてるんだから、今日のごちそうも残さず全部食べろよ。」
私が汁物だけ残したことが気に入らなかったのだろう。苛立たし気に、そして焦りも混じった声で疑問を投げてきた。その声音は何だろうか?母のような怒りや憎しみに似たような声音ではない。不安、不審といった焦りだ。
「父様がずっと汁物の方を見ているからです。何か入っているのですか?何を焦っているのですか?私が汁物を飲まないことに焦りを感じているのですか?それはなぜですか?」
私は今まで喋らなかった。だからこんな質問攻めにされて慄いたのだろう。男性は顔色に恐怖を浮かべた。何が怖いのか。こちらは、今まで貴方が見下げてきた一人の子供だ。
「何が怖いのですか?私が喋ることが怖いのですか?」
「ヒッ・・・」
とても疑問だ。私の死んだような顔が男の瞳に映る。私が一歩男性に近付くと男性は若干一歩引きさがる。
「この汁物には、異物が入っていることを知っています。致死量ではないが、子供が呑めば気絶する。そういうものが入っている。だから年々巫女が消えた。新年を迎える時、必ず巫女が一人消えることを私は知っていた。此処に来る前から。」
この島ではある風習がある。「新年の捧げもの」といい、供物と共に生贄を捧げる。その生贄はいつも死んだような顔をしていて、化粧でそれを隠しているようだった。そして後ろに控える黒子と宮司の合図で海に飛び込む。
その生贄は「人柱様」と呼ばれ、一年間崇拝される。見に行けるような裕福層は、遠目から供物と人柱を見物し一年の始まりを祝うそうだ。一握りの裕福層でも遠目でしか見れないのだから、私が見ることができないというのは普通だ。だがなぜ私がそんなことを知っているのか。
答えは簡単。「新年の捧げもの」の完成は凄いのだ。私がこの神社に来た理由は、孤児になったからではない。
「安心してください。こんなものがなくても私は貴方たちに従います。・・・自分の地位を確立するために、生贄が欲しいんでしょう?」
にっこりと笑い、私は男性を見上げる。・・・私は死ぬためにここに来た。裕福な層は「新年の捧げもの」に金を払い見学する。神社の人間はそれを手にし、裕福な暮らしを得る。「人柱様」という屍の上で、この大人たちは生活している。
私は、この神社に来てそう結論付けた。それほどまでにこの神社はこの島で一番大きいのだ。男は私に恐怖を感じたのか、走って逃げて行った。
「・・・。」
一度は肉親に殺されかけた身だ。今更命に固執する意味がない。
翌朝。あれから男の姿は見えない。が、外には真っ白な衣装があった。これを着ろということだろうか。小さな悲鳴が聞こえたので、声の方を見てみると、顔をお面で隠した巫女がいた。
今までに見たことのない巫女だ。それに身長が高い。ということは大人の女性なのだろう。巫女衣装の色も若干違う。あの男性の仲間なのだろうか。気にせず服を回収し、襖を閉めた。
さて、父、兄に先立たれ、母に産まれたことを後悔され、感情よりも観察を優先してきた私の最後の行事だ。・・・楽ではないが、死ねることに感謝を。
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