五十代になってから知り合い、結婚した夫婦。夫には少し独り言が多い癖があった。けれど、それ以外は優しい、ごく普通の人だった。そんな夫に誘われ、初めての登山へ出かけた妻。辿り着いたのは、登山道から外れた先にある崖だった――。淡々と語られる「夫人の証言」の中に、ほんの少しだけ混ざる奇妙な違和感。そして最後にある事実が判明した瞬間、それまで何気なく読んでいた言葉の意味が変わります。はっきりと怪異を描かず、「もしかして……」を読者に残して終わる。短いからこそ余韻の残る、静かな怪談でした。