舞台は、かつて存在したトゥヴァ人民共和国。
主人公は、時代の流れによって僧院を離れ、国立印刷所で働くことになったダンザンです。
この作品で特に面白かったのが、大きな歴史の変化を、政治家や軍人ではなく「文字を組む印刷工」の目線から見ていくところでした。
国の方針が変われば、使われる文字も変わる。
言葉の扱われ方が変わり、印刷所で働く人々の仕事や暮らしも変わっていく。
歴史の教科書では数行で語られてしまいそうな出来事が、ダンザンが一本一本の活字を拾う日々を通して描かれることで、「そこで暮らしていた人にとっては、こんなふうに日常が変わっていったのか」と感じられるのがとても興味深かったです。
また、私はトゥヴァ人民共和国について全く知識がなかったのですが、文字や印刷、言葉という身近なものを入り口にしているので、その歴史を自然と追っていくことができました。
そしてこの物語を通して何度も考えたのが、「失われること」と「残ること」でした。
国や制度は変わっていく。
文字も形を変えていく。
それでも、歌や言葉、人から人へ渡されていくものまで、すべてが同じように消えてしまうわけではない。
タイトルの『国より先に死んだ文字』も、読み進めるほどに重みを増していきました。
派手な戦いや英雄譚とは違う角度から、一つの国の歴史を見つめる作品です。
近代史が好きな方はもちろん、文字や言葉、文化や記憶が受け継がれていく物語に惹かれる方にもおすすめしたいです。✨