声色(こえいろ)、書き色
宇佐田のの
Prolog 私のコトバ、あなたの声
深夜1時をまわる頃
デビューして三年目の新人小説家
仕事を終えた亜子は車椅子のタイヤを手で押して机から離れ、ベッドの縁に一度座り横になる
ベッドの枕元の脇には携帯用ラジオが置いてあった
ラジオでは亜子が大好きな¨彼¨の声が流れていた
『時刻は午前1時になりました。今晩は、パーソナリティーの
少しのトークの後にタイトルコールが入る
『さぁ、今週も隼田ユキのミッドナイト・ライブ始めていきましょう』
少し高めのしっかりとしたそれでいて優しく包まれるような声がラジオから聞こえる
亜子は毎晩この声を聴きながら眠りについていたのだった
亜子は生まれつき下肢に障害をもっていた
生まれてすぐ脳性麻痺と診断を受け、3才からずっと車椅子生活をしてきた
そして未だに娘に甘い父と、厳しい母に育てられ現在も実家で過ごしている
ちなみにだが亜子は勉強にも仕事にも集中していたため、恋の話の一つもなかった
そんな生活を続けているうちに気づくと28年が経っていた
そんな亜子が勉強や仕事で詰まってしまった時に、リラックスのために聴いていたのがラジオ番組だった
特にこの『隼田ユキのミッドナイト・ライブ』は番組が始まった2年半前からずっと聴いている番組だった
未だに亜子はユキと初めて会った時の奇遇な出会いを忘れることはない
そして亜子は今夜も大好きな人の声に包まれ、彼の笑顔を頭に浮かべながら幸せな眠りにつくのだった
●●●
一方、ラジオブース内でトークしている隼田ユキ
リクエストの音楽をはさみつつ1時間半トークをする
リスナーからメールを読んだり、スタッフに話しかけたりそれが彼の仕事のなかでの日常だ
「それではリクエストにお答えして一曲お送りしたいと思いますーー」
リクエストの音楽を流している間、次の流れをスタッフと一緒に確認する
曲が終わるとまたトークの続きが始まる
そうしてユキの1時間半の仕事は終わってゆく
「今週も最後まで聞いて頂きありがとうございました。それでは皆さん、よい夢を」
最後の挨拶を終えたユキは、イヤホンを外し、キャスター付きのイスに座ったままんーと大きく伸びをする
そしてイスから勢いよく立ち上がり、お疲れ様でしたと周りのスタッフに挨拶をして荷物を持って帰宅の準備をする
カバンからスマホを出して電話をかけるユキ
画面には『亜子さん』の文字が見える
コールを何度かするが応答はない
「もう寝れたのかな」
ユキはそう言って着信を切る
「おやすみ。亜子さん 」
そう言ってユキは微笑み、自分の自宅へと足を進めた
この二人が奇遇な出会いをしたのは
ここから2年前の秋の初めの頃だった
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