第3話 千代田区の魚定食②
西京味噌、肉厚の金目鯛、味噌の染みた皮のコラーゲン、箸休めの小鉢や椀もの。
それらと交互に日本酒を口に含む。
なめこの赤出汁もまた、たまらない。
皿に溢れた日本酒もグラスに注いで、また飲む。
窮屈な日常から解放されたディアーヌは、その至福のひと時に浸った。
平日昼からアクセル全開で愉しむディアーヌは、周りの客たちに眼福をもたらした。
(良い食べっぷり、飲みっぷり。見ているだけで気持ちが晴れ晴れとするようだ。)
(にしても、外国の方が随分とこなれた注文をすること)
「はーい、お待たせ。フィッシュマサラ、パニール入りね。」
お〜。
脂の乗った鯖にココナッツミルク、タマリンド(亜熱帯地域のフルーツ)、トマト、インドのチーズ、玉ねぎや生姜などが、複雑なスパイスと共に炒められている。
トロトロのカレーをひと口。
(鯖がとろける!トマトの旨味や酸味、ココナッツミルクのコク、スパイスの爽やかさ、絶妙だわ。)
パニールのふわっとしながらも、噛み締めると乳製品らしい味わいが広がる感じが、大好きだ。
「お酒、なくなっちゃった。」
ディアーヌがぽつり。
他の新規の客のオーダーを取っていた女将も流しにいた主人も、これには思わずキュンとしてしまう。
「次、何か飲みますか?」
注文を取り終えた女将さんが、声をかけてくれる。
「カレーに合う…なんでしょう。」
「それなら……」
また厨房の方へ消えていく女将。そして、なにやら4合瓶を持ち出してきた。
「香川の川鶴酒造が造っている、讃岐くらうでぃっていうお酒」
女将はラベルに描かれた七色の鶏のイラストを指差しながら続ける。
「乳酸感があってクリーミーで、ちょうどラッシーみたいな感覚で飲めるかなと。面白いし、美味しいお酒よ。」
「では、そちらをお願いします。それと、ごはん、おかわりっ」
異世界で完璧な令嬢として生きるディアーヌ、呑兵衛としても健啖家としても抜かりはない。
「ほんと、素晴らしい食べっぷり、飲みっぷりね。見ていて気持ちが良いわ。」
だってー幸せなんだもんー♪
出された讃岐くらうでぃ。白く濁っていて、甘酸っぱく飲みやすい。確かに、ラッシー感覚で、カレーにも合う。
続いて出されたおかわりご飯。大きく口を開けてカレーとご飯を頬張る。
幸せを噛み締めながら、パクパクと完食。
「ご馳走様でした!」
お会計を待つ間、隣のサラリーマンの注文したものが出てきた。
とろっとろの鯖味噌に、なんと、かき揚げが!そんなのあったっけ!?
メニューを見直すと、やはり気づきにくい位置ではあるが、かき揚げとしっかり記載されている。
しかも、今日のは《切干大根と桜海老と春菊のかき揚げ》と、大変唆られる内容だ。
しかしーー
ディアーヌは心を決めて、会計をお願いした。
また来れば良い。
アジフライも気になるし、楽しみがたくさん残っているのは素敵なことよ。
「美味しく食べてくれたようで。」
綺麗に完食してある皿とグラスを見て、女将が言った。
「ええ、また、来ます。」
「はーい、お酒ももっと色々揃えてるからね、また色々出すわね。」
「心より楽しみにしていますわ。ご機嫌様。」
次は、何を頼もうかしら。今から胸が弾む。
昼から心地よくほろ酔いのディアーヌ。新緑の道をニコニコと歩きながら、さて、次はどこへ向かうのかーー?
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