眠れない男の耳に、毎夜、どこかの誰かの声が響く。
その声の主を突き止め、声が聞こえなくなるようにする――。
ただそれだけなら、特殊な力を持つ男を描いた怪異譚だったのかもしれない。
しかし、この作品の本当の恐ろしさは、声そのものではない。
聞こえた声を根拠に他者を裁き、自らの行動を正当化していく男。その歪んだ論理が奇妙な一貫性をもって積み重なるほど、読者は彼の耳ではなく、心の奥を覗き込むことになる。
果たして、その声はどこから来たのか。
男は声に苦しめられているのか、それとも声を利用しているのか。
短い一編の中で、怪異、犯罪、心理劇が鮮やかに連鎖し、読み進めるたびに「地獄」の所在がずれていく。
そして最後に残るのは、耳を塞いでも消えてくれない、ひどく不穏な余韻。
人間の心が生み出す地獄を、切れ味鋭く描いた一作です。