抱腹絶倒のコメディを得意とされる作者様ですが、本作の冒頭は、臨終を迎えた父親のもとに娘が駆けつけるというもので、極めてシリアス。
あれ、今回は感動系ヒューマンドラマなのかなと思いきや、父親が「ボルシチが食いたい」と言い出したあたりから、話はどんどんおかしな方向へ――。
臨終のはずなのにけっこう元気な父親と、その最期の願い(多い)を何とかして叶えてあげようとする家族たち、内心でキレッキレのツッコミを入れる主人公。
爆笑する一方、「お父さん、素敵な家族に囲まれた、幸せな人生だったんじゃないかな」と、胸があたたかくもなります。
キャラクターの一人がラストで述懐することを、私も思わずにはいられません。
笑いとさわやかな感動に満ちた、新ジャンル「臨終コメディ」が爆誕です!
初めは真面目に、老父との最期の別れに臨む家族の姿が描かれる。もっと早くこんなことをしてやればよかったと後悔する描写など、愁嘆場のリアリティは高く、しんみりとした気持ちにさせられる。ところが死にゆく父の最後の願いを聞いてやろうと世話を焼き始めたあたりから、雲行きが怪しくなってくる。いつもの作者のおふざけが滲んでくるのだ。最初は「タバコが吸いたい」だったのが、「ボルシチが食いたい」「ビーフストロガノフが食べたい」と徐々にそれが末期の人間が願うことか? という願いになっていく。一方で家族のリクエストへの応じ方も、どんどんいい加減になる。この「最後の願い」が延々続いたために、孫がおじいちゃんの死に目に間に合うという無駄に感動ものの展開も踏みつつ、物語はちっとも臨終に向かわない。
コメディでありながら、人間死ぬ時はこのくらい笑いながらのほうがいいと思わせる、妙に思索的な小説でもある。