主人公は、子どもの頃の記憶を語る。
雨の日の昼間。
風邪をひいて一人で家にいた。
両親のいない家の薄暗い部屋で、つけっぱなしのテレビを見るともなく眺めている。
どこにでもありそうな、特別なことのない時間。
読者は、いつの間にか主人公と同じ日常の中へ入り込んでいくことだろう。
やがて、画面の中で事件が起こる。
主人公は事件の報道を見ていたはずなのに、視聴を始めた後になって、まるで事件の発生そのものを目撃するかのように、その瞬間を見ている。
しかも、その描写はまるで主人公自身が現地にいたかのように詳細だ。
その後の番組の展開もまた奇妙である。
事件が起きた直後だというのに、現場レポーターは全ての状況をすでに把握しているかのように淡々と解説している。
しかし、そのレポートでは事件現場周辺の目立つ位置にある団地について、一切触れられない。
物語の終盤、事故に遭った少年が母親を見つけて叫んだ事と、ある映像が結びつく。
けれど、そこにも明確な論理は存在しない。
事件の記憶も、記録も、主人公以外には現在残されていない。
つまり、何ひとつわからない。
物語の結末さえ、読者に委ねられるのだ。
最後に明かされるある事柄によって、物語の見え方が一変するのだが、それでもなお拭いきれない不可解さは残る。
この物語の不条理は、読み終えた後にこそ強烈な印象を残すだろう。
あなたにも、この奇妙な混乱を味わってほしい。
きっと、忘れられなくなるから。
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