ケーキ店に並んでいたのは、意味の分からない名前が書かれた少し変わった洋菓子。その一つを巡る、ごく短い人と人とのすれ違いを描いた掌編です。印象的だったのは、登場人物たちが多くを語らないこと。視線や仕草、ちょっとした行動だけで、それぞれの人柄やその場の空気が伝わってきます。そして、名前からは何も想像できなかったお菓子が、実際に口へ運ばれることで初めて「味」を持つ。大きな事件が起こる物語ではありませんが、ケーキ店で偶然生まれた小さな出来事と、最後に残るやさしい甘さが心地よい短編でした。