「豆を撒くのであるッ!」
また、唐突にこの師匠は……。
ここは異世界、節分じゃあるまいし、豆撒きの習慣なんてないでしょう?
いや、まてよ?
餅つきやったよね?
初代様とその奥さん転生者っぽいよね?
本当にあるの?
「あの師匠? その豆撒きと言うのはどう言ったもので?
畑に豆を蒔く農作業では無いですよね?」
「勿論であるッ!
初代様の頃より続けられている神事であるぞッ!
年に一度この頃に、家の中や鬼に向かって豆を撒き、皆の無病息災を祈るのであるッ!」
「ええと、まさか『鬼は外、福は内』と言って豆を撒くとか?」
「なんじゃ、分かっておったのか?
そうだ。 家の中では『福は内』と言って豆を撒き、外では『鬼は外』と言って魔滅を魔駆のだッ!」
やっぱり、転生者らしい事やってるんだね。 …………ん?
「師匠? 『豆を撒く』の感じが違う様に聞こえたんですが、外でも『豆を撒く』んですよね?」
「可笑しな事を聞くでないわッ!
外で『魔滅を魔駆』で間違いないッ!」
「分かりました。
で、話を元に戻しますが、私達はどこに豆を撒きに行くんですか?」
「付いてくるが良いッ!」
そうして私は師匠に連れられ、他のガチムチさん達と合流し、何故か公都の外に出た。
そして私は軽く走ると言いつつも前世の高速道路ばりの速度で走らされている。
こんな事が出来る様になってしまったのは、日々の地獄の様な訓練のせいだ。
どんどん人間離れして行く自分に引いてる私がいる……。
そして相変わらず、少し進むとガチムチどもは謎のポージングを始め、時折出てくる魔物を一蹴し、昼過ぎには魔の森と言われる森に入った。
「師匠、ここ魔の森ですよね?
『お主にはまだ早いッ!』て言ってませんでしたか?」
「そうなのだが、神事であれば致し方あるまいよ、精々死なぬ様にする事だな?」
「えええええ? なんで、そんな物騒な所に連れて来るんですかっ!
外で豆を撒くなら適当に公都を出てすぐで良かったじゃないですか?」
「そんな所に鬼がいる訳無かろうがッ!」
「え? 本物の鬼を探しに態々ここまで来たんですか?」
「それ以外の何がある?
お? 来たぞ?」
師匠がそう言って目線をやった先にオーガがいた…………。
うん、確かに鬼みたいな角生やして体が赤いね?
でも、オーガなんだけど?
まあ、ファンタジー物では鬼の仲間か……?
ならいいのかな?
「見ておれッ!
オオオオオオオ! ニイイイイイイ!
ゥワアアアア! ソオオオオオオ!
トオオオオオオオオオ!」
師匠が撒いた? 豆? が目にも止まらぬ速さでオーガに向かい、無数の穴が空き、オーガは絶命した。
何、怖いんですけど?
豆撒きでオーガを蜂の巣にするのが、神事なの?
その前に、掛け声のリズムと構えが完全にかめ○め波だったんだど!?
その構えで何であんな速度で豆を打ち出せるの?
師匠は満足気に頷き、豆? が入っている袋を私に渡して来た。
え? 私もあれやるの?
私、か○はめ波撃てないよ?
「今の見本通りやるのだッ!」
「え? 構えも掛け声もそのままやるんですか?」
「当然であるッ!」
……絶対無理!
出来る訳無いじゃん!
でも師匠命令だしな……やるだけやってみるかな。
そう思って袋に手を入れた瞬間、小さな声で『マメマメッ』とか『マメェ』と聞こえる……。
何で豆が喋るのよ!?
「師匠、豆が『マメマメッ』とか『マメェ』とか言うんですけど?」
「気のせいである」
「いや、絶対言ってますって!?」
「気のせいであるッ!
それよりも、来たぞッ!」
「ええっ!? 仕方がない!
オオオオオオオ! ニイイイイイイ!
ゥワアアアア! ソオオオオオオ!
トオオオオオオオオオ!」
私の手から離れる瞬間『マメェェェェ!』っ聞こえたが、気にしない。
そして何故か師匠の時と同じ様に飛んでいき、オーガを蜂の巣にした。
この豆? のおかげかな?
「師匠……この豆、何なんです?」
「これはこの時期だけにに採れる『クズ豆』と言う豆だ。 良く飛ぶので主に豆撒き用に使っておる」
「主にと言う事は他に何に使うんです?」
「こうして手に持って」『マメッ?』「は、はい」
「食うのだッ!」 『マメェェェェ!』「ええっ!?」
ボリボリ音を立てながら『クズ豆』を食べる師匠の口の中から微かに『マメエ……』って聞こえる。
薄暗い魔の森の中、蜂の巣になったオーガを横目に見ながら、ガチムチの巨体で、喋る豆をボリボリと貪る師匠を見て、どっちが鬼なんだか解らなくなった私がいた……。
やっぱり、この師匠の弟子になったの間違いだったかな?
