敢えて一言で表すならば。
それは、鎧武者に似ていた。
一帯を覆う氷よりも、なお冷たい輝きを帯びる青い装甲。全体のシルエットは戦闘機のように鋭角的で、いかにも兵器然としたグラウカとは別系統の機体であると一目で分かる。だが何より目を引くのは、両手足に装着されている銀色の部位だろう。
変形前に日本刀の刃を構成していたと思しきその銀色の部位は、現在ギガントアーム・ランバ――もとい、スズカゼの前腕と脛部にそれぞれ配置されている。
波打つ波紋のような独特の紋様は、驚く事に流動していた。この銀色の部位自体が独立した魔法行使のためのデバイスであり、スズカゼ本体から供給される魔力と連動しているのである。
「あの銀色は……よもや、ハイブリッド・ミスリル……!?」
ジットが目を丸める最中、一郎は気付いた。
遠方、グラウカの足元近く。自動補正でズームする視界に映るジットと、ぐったりしている自分自身の姿を。
「あれっ」
「どうした」
「俺がいる! なんで!? てかどうしていきなりこんな離れてんの!?」
「……呆れた男だな。本当に何となくで動かしてしまったのか」
「何を」
「目で見た方が早そうだな。足元を見ろ」
「足元?」
上体を傾けるスズカゼは、そのツインアイで捉えた。
鏡のような氷面に映った、己の巨体を。
「え、なにこれ」
まじまじと見る。
それから試しに右腕を上げてみる。
鏡面に映る機械巨人は、一郎とまったく同じ動きをした。
「何これVRってヤツ?」
「アバターと言う意味でなら近しいな。もっともV抜きではあるが」
「そうなのか」
一郎は頬をかく。
機械巨人の己のマスク部分をゴリゴリした。
「VRのVってなんだっけ」
「バーチャル《Virtual》のVだ。その辺は地球人のキミの方が知ってて然るべきだと思うんだがね」
「ごめんなさいね疎くて」
などと一郎とミスカが会話する間、トーリスは判断していた。経緯はまったく分からないが、ギガントアーム・ランバを操縦しているのは、どうやら素人であるらしい
、と。
ランバの性能は機密扱いのため正確な戦力差は不明だ。だが両手足にあれだけ巨大なハイブリッド・ミスリルを装備しているというだけで、魔力容量の差は明らか。翻ってトーリス側の戦力はグラウカ三機。まともにぶつかって勝てる望みは薄いだろう。
だが。
パイロットが素人であれば、まして異世界人となれば、ランバの魔法性能を引き出す事なぞ出来まい。
勝算は十分にある――!
「行けッ!」
ジット達へ完全に背を向けたトーリスは、僚機である二機の無人グラウカへ指令を飛ばす。内容は白兵戦による無力化、ないし破壊である。数と質量差を絡めた先制攻撃に出たのだ。
スラスター噴射で高速移動しながら、二機のグラウカは拳を握る。その量鉄拳へ光が燈ると、現れたのはスパイクが生えたナックルガードだ。魔法によって編み上げられた打撃武装である。
「まずい、来るぞ!」
「えっ」
顔を上げたスズカゼの眼前、迫るは高速突撃をかける二機のグラウカ。この時、ミスカはダメージを覚悟した。
だが。
「しゅッ」
強く、短い、一郎の呼気。
それが響くと同時に、先頭のグラウカは顔面をひしゃげさせていた。
スズカゼの右拳が、そこに突き刺さっていたからだ。
スウェー回避と同時に打ち込まれた、完璧なタイミングのカウンターであった。
「な」
ミスカ、ジット、トーリス。三者が言葉を失う間に、スズカゼは更なる追撃を放った。狙いすました回し蹴りである。
「しゃッ」
風を切り、地を抉り、直撃する大質量。風圧だけで近くの氷樹を何本か砕いた一撃は、グラウカを当然のように吹き飛ばした。
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