「いける、と思うんだよな」
「お前何を言って――」
ミスカの言っている何かが、一郎の耳をすり抜ける。
トーリスの作り出した光の檻が三人を閉じ込めても、一郎は気にも留めない。
彼は、ただひたすらに刀を見た。
多少離れた事で、改めて巨大な事が良く分かる日本刀。
けれどもそれは、間違いなく加藤一郎の半身なのだ。理屈でなく、それが分かる。
だから。
「こう、やってさ」
一郎が日本刀の柄を握るのと。
トーリス機のセンサーが突然現れた魔力反応にアラートを鳴らしたのは、まったくの同時だった。
「む」
片眉を上げるトーリス。これ程周到な隠蔽をしていた連中だ、やはり隠し玉を用意していたか。だがどんなものだろうとこの状態で
「え」
などという余裕は、魔力方向へ振り向いた途端に吹き飛んだ。
そこに居たのは――もとい、あったのは。
巨大日本刀ことギガントアーム・ランバの柄をしっかと握る、これまた巨大な光の手だったのだ。
「な、ん」
なんだ。トーリスがそう言い切るよりも早く、光の手は拡張していく。良く見ればその手は魔力光の線によって立体的に形作られてる。さながら針金細工のように。
加えてその針金は、尚も伸張と拡張を止める気配がなかった。
手か腕が。
腕から肩が。
肩から胴体が。
胴体からは頭を含めた全ての四肢が。
それぞれ一秒も見たぬ間に生成されていく。
かくて完成するのは、ギガントアーム並の巨躯を見せる、光の針金細工巨人。
表情はない。だがそのシルエットと佇まいに、ジットは覚えがあった。
「加藤、一郎、さん?」
反射的に杖の先、自分が浮かせている一郎を見上げるジット。
その肝心の一郎は、しかし目を閉じてぐったりと身体を投げ出していた。
「加藤さん? 加藤さん!?」
「お前、一体なんだ!?」
丁度その時、完全に向きを変えたトーリスが、謎の人型へ指を差した。
人型は、それが聞こえているのかいないのか。
巨大な――彼の身体を以てしてもまだ少し大きいその刃を、ゆるりと引き抜く。
そこでトーリスは気付いた。この人型を構成している魔力は、ギガントアーム・ランバから供給されている事に。
「誰が……誰だ! ギガントアーム・ランバを動かしているのは!」
「ランバ、ね」
刀を担ぐようにしながら、人型は答えた。距離があるため多少ハウリングしていたが、間違いない。
「何度聞いても、刀につける名前じゃないよな」
それは間違いなく、加藤一郎の声だった。
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